be with you 【Rosaceae】
 
いまは まだ 叶えられていない
 
約束さえ
 
大切だからここにいる
 
 
Be with you
 
 
月の奇麗な夜だった。
 
劉輝は一人、庭へでて空を見上げた。
一陣の風。そして、掌に舞い降りた一片の花びら。
呼ばれているような気がした。
 
考えるよりも先に、体が動き出す。
 
そうして、たどりついて。
 
既視感。
それとも、自分が欲するあまりの幻だろうか。
近づいたら、風が吹いたら、消えてしまうのではないだろうか。
そう思うと、息すらも止まってしまいそうだ。
 
彼女を最初に見た時と全く同じ。
いや、よく見れば少しだけ伸びた背の丈、女性らしい柔らかさの出てきた肢体、あのときよりも簡素な衣。同じようで、違う。
そういえばあの時は、彼女の笑顔と同じ、温かな陽光の下だった。
だが。
今夜月明かりの下、桜の木の下にいる彼女は。
あの時と同じ。
懸命に上を見上げて、手をのばして。
 
漸く足を踏み出して。
後ろから手を伸ばし、彼女の欲しているものを、代わりに取ってやる。今度はきちんと、花だけを。
そうして、抱き上げる。
肩にそっと預けられる妻の頭と、囁くように伝えられた言葉。それは確かに、彼女がここにいるという証。
「ただいま。劉輝。」
「おかえり。秀麗。予定より早かったのだな。まずは、お茶をいれてくれるのであろう?それから、話を聞かせてくれ。」
「ふふ、桜が散ってしまうまでに間に合ってよかったわ。会いたかったわ、劉輝。」
「余も、寂しかったぞ。ひと月も離れていたのだからな。」
「ごめんなさい、でもどうしても報告の内容が気になって。」
「だからと言って、妃自ら、出向くことはないのだ。」
「そうね、うちのだんな様は理解があるから、私は幸せよ。」
「そう思うなら、余にご褒美をくれてもいいと思うのだ。」
「そうね、何がいい?」
「まずは二胡を聞きながらお茶を飲む。」
「わかったわ。」
「それだけでは足りぬぞ。余はたくさん我慢をしたからな。」
「…そうね。ほかには、何?」
「一緒にお風呂に入って、朝まで一緒にいる。一緒に朝餉も食べる。」
風呂という言葉に、秀麗の顔がこわばった。だが、劉輝もここは譲れない。
「そのくらいのご褒美がないと、我慢をした旦那さんがかわいそうだと思わないか?」
「…灯り、暗くしてくれる?」
「余は理解のある旦那さんだから、善処はする。」
「//////わかりました、旦那さま。」
 
さあ、夜はこれから。
 
 
 
 
 
 
 
 
あとがき、という名の言い訳
 
初めて劉秀に挑戦しました。
 
秀麗は、結婚しても、後宮におさまってはくれなさそうですね。
西に、不作の懸念があれば飛んで行き、東に不正の噂を聞けば忍んで行く。
劉輝はさみしいとは思っても、そんな秀麗が好きだから、許しちゃう。
 
そんなイメージで描きました。
 
BoAちゃんの be with you から、タイトルをいただきました。
結婚=ハッピーエンドではなくて、そこから二人の物語が始まっていくわけですが、その一ページを描けていたらいいのですが、どうでしょうか?
 
 
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