Valentine's day kiss 絳攸と秀麗の場合
そして、数日後。
「絳攸さま、これ、どうぞ。」
妻から差し出された、小さな箱。しかし絳攸には、何の事だか、わからない。ただ自分にくれるということなのだろうと受け取る。
だが聡い妻には、表情だけで、そのこともばれてしまったようだ。
「今日はバレンタインデーです。」
そう告げられ、漸く得心がいった。確か、東の嶼国の習慣で、女性が愛する男に、菓子を渡す日だ。絳攸の心に、温かいものが広がり、思わず、秀麗を抱きしめる。腕の中の妻は、嬉しそうにそっと囁いた。
「絳攸さま、愛しています。」
いつもは恥ずかしがって、そんなことを口にすることは少ない妻の、精一杯の言葉。思わず抱きしめる手に力が入る。
「絳攸さま、痛いです。」
その言葉に思わず手を離し、そうして次に起こった出来事に、絳攸は一瞬だけ硬直し、次いで妻に告げる。
「不意打ちなんて、反則だ。」
そうして、今度は彼のほうから、秀麗に口づけた。