JEWEL

 

※李姫 未来捏造
 
夫婦設定
 
子ども2人
優楓(ゆうか)5歳くらい 絳攸と秀麗の娘
泉俊(せんしゅん)1歳くらい 絳攸と秀麗の息子
voyageの設定と似ていますが、優楓と泉俊の年齢差がvoyageよりも大きいです。
 
 
以上の設定をご理解いただける方のみ、本文へお進みください。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
JEWEL
 
 
 
 
 
それは、ある日の帰り道のことだった。
 
自邸にはまだ距離のある街の中で、軒がとまる。
 
ほどなくして、御者から伝えられたことに驚き、絳攸は急いで外に出る。
 
そうして呆れたように、声をかけた。
 
「こんなところで何をしている?」
 
「とうさま…。」
 
見上げてきた愛娘の顔は、涙でぐしゃぐしゃだ。
 
「一人で家の外に出てはいけないと言っているだろう。何をしていた?」
 
秀麗はじめ、家の者が心配しているに違いないと思い、ひとまず娘を抱きあげ軒に乗り込む。
 
父の腕の中で安心したのか、徐々に泣きやんで、話し始める。
 
「とうさまを、迎えに行こうと思ったのですが、迷ってしまって。」
 
「俺を、迎えに?どうしてだ?」
 
確かに娘は、いつも自分が帰宅すると駆け寄ってきてくれるが、外まで出てきたことなど今まで一度もない。
 
第一、 子供だけで外に出てはいけないと、よく教えてある。
 
普段は聞き分けのいい娘で、教えたことを破るようなことはないのだが。
 
「迎えに行けば、とうさまが、もっと好きになって下さるかと思って。」
 
「そんなことをしなくても、俺は、お前のことが好きだぞ。」
 
なぜ突然そのようなことを言い出すのか、わけがわからない。
 
だが、腕の中の娘は、真剣に訴えてくる。
 
「かあさまは、私よりも泉俊のほうが、大切になってしまったのです。
 
だから、とうさまには、もっともっと私のことを好きになっていただきたくて。」
 
漸く得心がいった。
 
 
 
息子の泉俊は乳離れもまだで、手が離せない。
 
利発で身の回りのことを何でも自分でできる優楓よりも、泉俊のことに時間をとられることになるのは自然なことだ。
 
娘は絳攸と秀麗から見れば手のかからない子だが、本人は寂しさを感じているのだろう。
 
それを気付いてやれなかったことを悔いた。
 
そうして、娘の目を見てゆっくりと話してやる。
 
「優楓。とうさまもかあさまも、優楓と泉俊が同じように好きだぞ。
 
泉俊はまだ小さいから、どうしてもかあさまは泉俊にかかりきりになってしまうが、
 
優楓が生まれた時もそうだったんだ。
 
優楓が心配することはないぞ。」
 
「ほんとうに?」
 
「ああ、本当だ。」
 
絳攸の言葉に安心したように、優楓の顔に笑顔が戻ってきた。
 
この笑顔にどれほど安らぎを与えられていることか、そう思いながら続ける。
 
「優楓がおりこうさんだから、とうさまもかあさまも少し優楓に甘えすぎていたかもしれないな。
 
だが、優楓と泉俊はとうさまとかあさまの宝物だ。」
 
「ほんとうに?いちばんすき?」
 
例え娘といえども、そこだけは、譲れない。正直に伝える。
 
「いや、とうさまの一番はかあさまだけのものなんだ。
 
だから優楓と泉俊は二番で我慢してくれ。」
 
「かあさまが一番なら仕方ないわね。わたし、二番で我慢するわ。」
 
ぎゅっと抱きついてくる小さい手に、また愛しさがこみあげてくる。
 
 
 
 
家に帰ると案の定、秀麗が青ざめた表情で待っていた。
 
絳攸の腕の中の優楓を見とめると、安堵のあまり力が抜けたのか、その場に座り込んでしまった。
 
優楓を床におろしてやると、秀麗の傍に歩いて行く。
 
「かあさま、心配掛けてごめんなさい。」
 
その言葉に秀麗は優楓を抱きしめた。
 
絳攸の言葉と、秀麗の温もりで、優楓の不安は消え去っただろう。
 
そう安心した矢先、優楓の言葉に度肝を抜かれる。
 
「かあさま、わたし、とうさまとかあさまが二番目にすきよ。」
 
秀麗も驚いたように目を丸くしている。
 
「まぁ、二番目なの?」
 
「えぇ、だって一番は、いつか現れる王子様のために取っておくものでしょ?」
 
その言葉に絳攸は青くなる。そんなことはお構いなしに優楓は続ける。
 
「かあさまの王子様はとうさまなのよね?」
 
小さな姫君の問いに、絳攸の最愛のひとは答える。
 
「えぇ、世界で一番素敵な王子さまよ。」
 
 
 
 
夜半。書斎にはいってきた秀麗に、絳攸は本をめくる手を止めた。
 
「眠ったか?」
 
「はい、二人とも。」
 
「秀麗ちょっとこっちに来い。」
 
妻を呼び寄せ、膝の上に横向きに座らせる。
 
秀麗は恥ずかしそうにしながらも、そっと体を預けてきた。
 
「秀麗。」
 
再度呼びかけ、帰宅した時から秘めていた願い事を伝える。
 
「もう一度言ってくれ。」
 
「?何をですか?」
 
「だから、優楓に言ったことだ。」
 
秀麗は察したように、少し照れた表情になる。そうして拗ねたように言う。
 
「私だけが言うのは、不公平です。ですから…。」
 
ねだる様に言われて、心からの言葉を告げる。
 
「秀麗。お前は、俺の一番の宝物だ。」
 
「愛しています。世界で一番素敵な私の王子さま。」
 
そういうと顔を伏せてしまった秀麗の顔をそっと上げさせる。
 
二つの影が近付いて重なったのを、燭台の揺れる炎だけが見ていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
あとがき、という名の言い訳
 
甘い絳攸さま。
 
夫婦になってももちろんらぶらぶ李姫です。
 
女の子って、兄弟に親をとられたって思うものでしょうか?
 
それよりも母親ごっこをするという話を聞いたことがあって、
 
優楓の心情や行動にリアリティがないのではという不安はありつつも、
 
最終的には自分の妄想のもとに書きました。
 
白状しますと
 
☆スピカ☆のはっちさまにリンクを快くご了承いただいたうえ
 
It’s a crazy love に感想までいただき、
 
お礼に捧げようと思い書いたのですが、
 
いざ書いてみると送りつける勇気が出ず、
 
ここにこっそり書いてみる。
 
小鈴の中では捧げた一品。
 
小心者と笑われてもよいです。
 
だって李姫っこの小鈴にとっては、憧れのサイト様なんだもん。。。
 
はっちさま、もしも受取OKなら、喜んで捧げますので!
 
ヘタレ小鈴より
 
2010年2月5日
 
 
 
 
2/9追記
無事にはっちさまに拾っていただきました。