私の王子様
幼い頃から
待ち続けて
いたもの。
それは……
白馬の王子
私の………
私だけの…
王子様……
秀麗が目を開けると、夫が心配顔で覗き込んでいた。
理由が分からず、夫に問うた。
「絳攸様、どうしたのです?」
「覚えてないのか? 宮城で倒れて医務室に運ばれたのを」
「えっ? …覚えてません…」
「疲労だそうだ。薬を貰い邸に連れ帰った」
言われてみれば、見慣れた寝室だった。
「……ごめんなさい。絳攸様、宮城にお戻り下さい」
絳攸は眉を上げ、
「何を言っている! 戻るつもりはない。急ぎの書類は邸に届けるように伝えた。側にいる」
「で、でも………」
言い募る秀麗の唇をそっと塞いだ。
名残惜しみつつ唇を放し、
「側にいる。秀麗の側に居たいんだ。薬を飲んでゆっくり休め」
そう言い、薬と茶器を差し出した。
秀麗は起き上がりそれらを受け取ると、
「私が眠っている間、絳攸様は何を?」
「ここで書物を読んでいる。お前の側に居たい」
それを聞いた秀麗は、胸が熱くなった。
薬を飲み、薬の包みと茶器を絳攸に渡し横になると、
「絳攸様……絳攸様は私の王子様なんです」
「俺が秀麗の王子……様?」
「はい。官吏になる夢と結婚という夢を叶えてくれた王子様です」
「……そ、そうか。なら秀麗は、俺のお姫様だ」
「どうしてですか?」
「起きたら教えてやる。ゆっくり休め」
そう言いながら、秀麗の頭を撫でた。
目を閉じながら、
「約…束ですよ」
それだけ言うと秀麗は眠った。
絳攸はため息をつき、
「秀麗の王子様は静蘭だと思っていたんだが……」
それだけ言い、卓から書物を取りめくっていく
再び秀麗が目を開けると、窓から夕日が見えた。
ふと、視線を横に移すと絳攸が書物を読んでいた。
真剣な表情で書物を読み耽っている絳攸をいつまでも見ていたいが、
起きた事を知らせるために声をかけた。
「絳攸様……」
声を聞き絳攸は書物から視線を外し、
「気分はどうだ?」
「大丈夫です。ありがとうございます」
そう言い、起き上がり、絳攸の手から書物を取り卓の上に置き、絳攸の肩にもたれ掛かった。
絳攸は、秀麗の髪を梳きながら問うた。
「秀麗……どうしたんだ?」
「約束しました話を聞かせてください。私が絳攸様のお姫様の訳を」
絳攸は、髪を梳きながら話し始めた。
「知っての通り、俺は本当の両親を知らない。黎深様に拾ってもらうまでの記憶が余りないんだ。
………だから、結婚はしないと決めていた。死ぬまで一人でいいと。
……でも、見つけてしまったんだ。共に歩み、守りたい人を………」
一気に話すと秀麗と視線を合わせた。
「……秀麗、単純な理由だろ?」
秀麗は絳攸の首に腕を回し、涙を流した。
絳攸は、指で涙をそっとすくった。
「泣かないでくれ、秀麗。……俺は、お前の涙に弱いんだ」
それでも泣き止まない秀麗の唇に自分の唇を重ねた。
秀麗の舌を絡めとり、口付けは深さをましていった。
口付けは、秀麗が泣き止むまで続いた。
秀麗が泣き止むと、絳攸は唇を放し、
「……俺の大切なお姫様。この後はどうする?」
そう問うと微笑み、
「絳攸様と……いたいです」
小さな声で答える。
絳攸は、秀麗を寝台に横たえ額に唇を落とした。
「今日は……抑えがきかない。覚悟してくれ……」
次に秀麗が起きたら、翌日で絳攸の腕の中にいた。
終
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