長い口づけの後、二人は窓の見えるソファに並んで腰かけ、肩を寄せ合っていた。
「せんせい、パーティーにいままで出なかった理由ってなんですか?」
「前にも言っただろう。
俺は養子なんだ。公式の場に行くことは、そのまま俺を披露したと取られかねない。
俺は、育ててもらっただけで満足で、跡継ぎとして誤解されるようなまねは控えたいんだ。」
うつむきながら話す絳攸は先ほどと同じ、菫色の瞳に影が浮かんでいる。
「あの、よそのおうちのことに口をはさむのは出過ぎたまねですけど、
今日の百合さん、嬉しそうでした。
きっと自慢の息子を皆さんに紹介できて、嬉しかったんですよ。」
「…そんなはずは、」
ないと言いかける絳攸を制して秀麗は続ける。
「だって私だったら、こんなに素敵な方が恋人なのよ!ってみんなに自慢したいです。
だから、きっと同じ気持ちなんだと思います。」
「そう、なのかな?」
「そうです!せんせいは恋人の言葉が信じられませんか?」
「いや。だけどいままでそんな風に考えてみたこともなかったから。」
「百合さんに、指輪のこと、聞かれたんです。」
「指輪?」
「はい。せんせいが私に下さった指輪です。
あれを一緒に見立ててほしいとせんせいに言われた時に、
百合さんとっても嬉しかったんですって。
お母さんとして頼りに嬉しかったって。」
「え、そうなのか。百合さん、喜んでくれていたのか。」
段々と絳攸の表情に明るさが戻っていく。
「せんせいは、お母様のことが大好きなんですね。」
秀麗の直接的な問いに、思わず絳攸は顔を赤らめる。
「そ、そうだな。すきだな。」
「ではその気持をもっとお伝えになればいいと思います。」
「そんなものなのか?」
「はい。言わなくても伝わることもありますが、言わないと伝わらないこともあります。
それに、わかっていても言って欲しい、言われたら嬉しいということもありますから。」
「確かにそうだな。俺は秀麗に何度でも好きと言わせたい。」
真顔で答える絳攸に今度は秀麗が赤面する。
「せ、せんせい。それはちょっと話が違うのでは?」
「違わない。秀麗、聞かせてくれ。」
急に艶を帯びた声でねだられて、秀麗は戸惑うばかりだ。
「い、今ですか?」
「あぁ、今だ。
言われたら嬉しいこともあるとさっき秀麗が言ったじゃないか。
俺を喜ばせてくれないのか?」
「そんな、改まって聞かせてといわれると、恥ずかしくて。」
「でも、俺は、聞きたい。」
その言葉に耳まで真っ赤にし、
少し上目づかいで囁くように告げられた愛の言葉。
文字にすれば、たった四文字。
「すき、です」
その言葉だけで、胸が熱くなり、同時に安らぎ、幸せの中を揺蕩うような気持ちになる。
その気持ちを秀麗と分け合いたくて絳攸も伝える。
「秀麗、好きだ。」
それを聞いた秀麗の顔に、笑みが広がっていくのを確認した後、絳攸は再び秀麗に口づけた。
あとがき、という名の言い訳
現代パロ本編(桜の時はつながっているようないないようななので)再登場です。
今回はテーマとしては「家族」。
秀麗と絳攸の物語であると同時に、百合さんと絳攸の物語でもあります。
また秀麗の母への思いも、入れたかったのです。
黎深さまは出てくると、とっ散らかるので、海外出張にでも行っていることにしてください。
着飾った秀麗の写真を等身大パネルに引き伸ばして、名乗りをあげる練習でもするのでしょう。
それにしても、この二人、何してるんでしょうねぇ。
何にもしてないよ!高級ホテルの最上階のスイートで夜景がきれいなのに!何にもしてないよ!
いやいや清く正しいのが絳攸×秀麗の鉄則ですから、今はまだこれでいいんです。
とするとやはり桜の時に繋げたくなるな~。桜の時の続きも書きたいです。
でもこの話の続き、黎深と百合と絳攸と、きちんと三人が家族として向き合う話も書きたいです。
黎深が出てくると、とたんにハードルが上がる。
でも家族の愛を知っている秀麗と、
家族がそろっているのに家族に対して臆病な絳攸が、二人で家族を作っていく様子を、ゆっくりゆっくり書いていきたいです。