はつこい 未来編
 
はいこい~未来編~
 

「ねぇかあさま。かあさまの初恋はやっぱりとうさまなの?それとも静蘭?」
愛娘の問いかけに、秀麗は目を丸くする。

「まぁ、優楓。どうしてそんなことが気になるの?」
「柏鶯さまがね、初恋は実らないものなのかしら?って心配していらしたの。」
「そう。柏鶯姫が。」
「柏鶯さまのお母様も、初恋は叶わなかったと仰っていたんですって。」
「そう、珠翠がね。」
「だからかあさま、教えて。とうさま?それとも静蘭?」

娘の問いに秀麗はうーんと少し小首をかしげたあと、答える。
「残念ながら、どちらでもないわね。」
「えー、そうなの?じゃあだぁれ?」
「玖琅叔父さまよ。」
「玖琅大叔父様?」

意外そうな優楓の声のほかに、扉の裏で、ゴツン・バキンという音がした。
  だが、秀麗は気付く様子が無い。

「そうよ。かあさまが優楓くらいの頃ね。優しくて、立派で、素敵だなぁと思っていたわ。」
「…。でも、大叔父様は別よ。他には?」

「そうねぇ。
  小さな頃に一度道で迷っている男の子と仲良くなってね、
  一緒におしるこを作ったことがあったの。
  かあさまのかあさまはもう亡くなってしまっていたのだけれど、
  その男の子はお父様もお母様もいらっしゃるのになんだか寂しそうにしていてね。
  それがすごく気になって、寂しくないようにしてあげたいなと思ったの。
  だからまた来てねって約束したのに、
  お昼寝している間にその子はいなくなってしまって、
  それっきり会えなかったわ。
  また会えないかと思って、
  何度かその子と会った場所に言ってみたりもしたけれど、居なかった。
  思えばあれがかあさまの初恋かしら?」

「ふ~ん。じゃあやっぱり初恋は叶わないのね。」
「さぁ、どうかしら?本気で頑張れば、叶うかもしれないわよ。
  かあさまも絳攸さまに振り向いてもらうまで、随分頑張ったのよ。」

「…とうさまが鈍いから?」
あまりに真実を付いた娘の言葉に、秀麗は苦笑する。

「そんな事言わないの。絳攸さまは今と同じで、お仕事の事に夢中でらしたのよ。
  女の子になんか興味ないって。
  でもかあさまは諦めないで、何度もとうさまに振り向いていただけるように頑張ったのよ。
  だから、柏鶯姫にも、諦めないでってお話して差し上げるといいと思うわ。」

「そうね。そうでなくても柏鶯様は諦める気はさらさら無いようだけど。」
「女の子はそうでなくては駄目よ。ところで優楓は、好きな男の子は居るの?」
「そうね。かあさまと同じ。玖琅大叔父様と、それから静蘭かしら?」

扉の裏では再びゴツン・バキンと音がしたが、秀麗は気付く様子が無い。

「まぁ、それは残念ながら叶わない恋ね。
  でも焦らなくてもいいの。
  かあさまが絳攸さまに出会ったみたいに、たった一人、大切な人に出会えればそれでいいのよ。」

そういうと秀麗は、刺繍の続きをしましょうと手元に視線を戻す。
 
 
      一方、扉の裏。

すっかり放心状態の絳攸と黎深を見つけて声を掛けたのは、泉俊である。

何故か絳攸の頭には大きなたんこぶができており、
      黎深の周りには、もともとは扇子であったであろうものが散らばっている。

それを一瞥しただけで泉俊は何があったか悟った。

「父上、黎おじいさま。
      また母上と優楓姉上のお話を盗み聞きされましたね?
      母上と邵可おじいさまに言いつけますよ!」

「泉俊、もうしないから秀麗にだけは…」
「泉俊、もうしないからあにうえにだけは…」

「以前ももうしないと仰ったじゃありませんか。」
泉俊は呆れたと声にも顔にも表わして隠そうともしない。

「泉俊。お前も大人になればわかる。この複雑な男心が。」

漸く言い訳した絳攸の言葉はしかし、泉俊に届く事は無く、
「とりあえず、この事は百合さんに報告させていただきます。」
そう言って去っていく泉俊の後ろに空しく響くだけだった。
 
<了>
 
 
 
あとがき、という名の言い訳
 
ここまで読んでくださったあなたは、相当洒落のわかるお方ですね。
おふざけにお付き合いいただきありがとうございます。
 
裏話を少しばかりしますと、このお話を思いついたのは、ちょうど桜の綺麗な季節でした。
夫と喧嘩したりいろいろあって、旅に出たかったのですが、
それほどの余剰資金も無く、手近なところで、六甲山に登った時のこと。
 
気軽に普段着で行ったのですが、予想以上の山っぷりで、
しかも雨上がりで坂の砂利はすべるし、下は深めの谷だしと、
若干命の危険を感じた事がありまして。
 
そのときに携帯通じるのかなぁ~?と思ったら圏外~1本を行ったりきたりしていたわけです。
で、このまま滑落死したらもしかして死体も発見されないままでは?と恐怖に戦き
(←戦くところが違うというツッコミはなしで)、
せめてGPS(ココセ○ムのような)を持っていれば、遺体発見に一役買うのに…と思ったのがきっかけです。
 
なので、もともとはコウちゃんにそれを持たせるかどうか、
黎百が喧嘩しているだけの話だったのですが、
なんだか膨らませて行ってこんなボリュームに。
 
オフの原稿やらないでこんなん書いてました。は○ちさま、申し訳ありません。
 
未来編のテーマは
①黎深化する絳攸(だって親子なんだもん)。
②いいところを持っていく玖琅様
③黎深に対して強めに出る泉俊。あにうえの孫で秀麗の子どもだから強く出られない黎深。
 
黎深は秀麗の話で、相手が絳攸だってことを気付くと思うのですが、絶対に教えてあげないでしょうね。
絳攸は小さいときの事を結構忘れているような感じなので(倶利伽羅絳攸になりかけた件とか)、この事も忘れていると思います。
 
でも一緒におしるこ食べたんだから、二人の赤い糸はそのときからしっかり玉結びされていたのです。
 
 
百合さんは嫁にも孫にも百合さんと呼ばれていると思います。
 
子どもたちが結構毒舌なのは、まわりに静蘭やらタンタンやら燕青やらが居るせいではないかと思われます。
  
 
 
感想やクレームは↓のフォームからお気軽にどうぞ!お返事は管理人blogにて。
2010年4月24日 小鈴 
 
 
 小鈴に感想を送る
 
 
   小説TOPへ
 
 
案内板へ