紅茂草
注意:李姫夫婦前提未来捏造話です。
李姫ジュニアをオリジナルキャラで捏造しております。
優楓(ゆうか):絳攸と秀麗の長子 女の子
泉俊(せんしゅん):絳攸と秀麗の第二子 男の子
 
 
ゆるい設定
 
紅家当主は邵可様
邵可様も黎深様も紅州居住です
百合さんは相変わらず飛び回っています。
黎明の騒動はあったけど、絳攸はその後きちんと這い上がっているような雰囲気。
黒蝶の騒動もあったけど、なんとか財産やら一族郎党やらは残ったような雰囲気。
 
ま、細かいことは気にしないでください。
 
 
OKな方はスクロールで本文へどうぞ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
紅茂草
 
ある晴れた春の日。
所用で貴陽紅邸に滞在していた百合は、庭の奥に分け入っていく優楓(ゆうか)と泉俊(せんしゅん)に目を留めた。
 
本来であればこの貴陽紅邸は、
時期当主にして貴陽での紅家関連事業を取り纏(まと)めている絳攸と秀麗の住まいである。
 
しかし、この邸は二人の生活の場ではない。
婚約当初は、邵可も百合もこの屋敷には若い夫婦が住むことこそふさわしいと考えていた。
しかし夫婦それぞれの事情から、
絳攸も秀麗もこの広大な屋敷に住むことを辞退して、
代わりに、敷地内の小さな別邸に居を構えている。
 
その事情とは、頑として家事を家人任せにしない妻の負担を少しでも減らすためであったり、
夫が邸内で迷ってしまう事を心配したりということなのだが、
これはお互いに口には出さず、
「手頃な広さのほうが落ち着くから」とだけ伝えた夫婦であった。
 
そんなわけで、二人の子どもである優楓と泉俊も同じく別邸に暮らしており、
同じ敷地内とはいえ子どもの足では半刻ほどもかかる母屋を訪れる事は稀であった。
その二人が、辺りを憚(はばか)る様にしながら、庭の奥へと入っていく。
これは何か楽しい遊びを始めるに違いない。
そう思った百合は、
可愛い孫がどんな遊びをしているのかこっそり見物しようと、そっと後を追ったのであった。
百合に後をつけられているなどとは気付きもしない二人は、
広大な貴陽紅家敷地の端に設けられた、とある場所へと入っていく。
そこは、季節ごとに趣向を変える庭院の為に、次の季節の花の苗を育てる苗床であった。
 
その場に二人が入っているのを遠目に確認しながら、百合の中に幼かった息子の姿が浮かぶ。
黎深が紅州から貴陽に出る途中で拾った少年。
今は李絳攸と名乗っている、自分たちの大事な息子。
二十数年前まだコウと呼んでいた頃に、
小さな顔を真っ赤にして一輪の花を差し出された事があった。
あれは多分、ちょうど今頃の季節。
「コウ、このお花、私にくれるの?ありがとう。」
「ふん、子どもの分際で女に花を贈るなどといらん知恵ばかりつけおって。」
「黎深は黙ってて。」
「あっ、あの、違うんです。これは、えぇとその。」
恥ずかしそうにもごもごと俯いてしまったコウに視線を合わせるために百合は腰を下ろす。
「どうしたの、コウ?ゆっくりで良いから教えてくれる?」
 
「はい。その、本で読んだのです。
東の嶼国(しまぐに)では、今日、紅茂草(こうもそう)を贈る風習があると。
えぇと、その、子どもから、お、お、お、おかあさんに。」
 
そういうとコウはいけなかったかな?というように、ちらりと百合を見て所在無げにしている。
百合はコウの迷っている事がようやくわかった。
 
何度言い聞かせても、コウは遠慮がちで、自分たちの子どもとして甘えてくれる事は少ない。
今日も、百合を母と呼んで良いものかどうか思案しながらも、
感謝の気持ちを現すのだと知ったからこそ、こうして花を持ってきてくれたのだろう。
百合は言葉の変わりにぎゅっとコウを抱きしめる。
そうして柔らかな銀色の髪をそっと撫でながら、ゆっくりとコウの目を見て伝える。
 
「コウ。
コウが来てくれたから私はお母さんになれたんだよ。
それもこんな嬉しい事をしてくれる孝行息子。
私を幸せなお母さんにしてくれて、ありがとう。」
「僕、ぼく、今はお花の一輪しか用意できませんが、
沢山勉強して、大きくなったら
きっとれいしんさまと、ゆりさんのお役に立てるように頑張ります。」
そのとき百合は、そうなの?ありがとうと言って、コウの頭を撫でただけだった。
もしあの時、ただ居てくれるだけでいい、家族なんだからと伝えていたら、
何か変わっていただろうか?
一瞬だけそんなことを考えて百合は頭を降る。
遠回りしたけれど、結局自分たちは分かり合えたし、
それまでの間も沢山幸せをもらった。
何よりも絳攸が優楓と泉俊に出会えた事。
それが答えのような気がする。
「なんだか結局、邵可様の手のひらの上に居るようで悔しいけど。」
そう呟きながらも、一族を愛し家族を愛する紅家の男が嫌いではない自分を知っている。
彼らが暴走しそうになったときは、それを止めるのが紅家の女の仕事。
大丈夫。秀麗も優楓も居る。
だから絳攸も泉俊も思う存分愛に生きれば良い。
そう思いながら百合はそっとその場を離れたのであった。
 
その日の夕刻、絳攸と秀麗に連れられて、優楓と泉俊がやってきた。
泉俊の手は後ろにそっと回されていて、
だけど腰の辺りから紅茂草の花がちらりと見えた。
頬が緩みそうになるのを我慢して、どうしたの?と問う。
それを待っていたかのように、泉俊が自分の頭よりも大きな紅茂草の花束を差し出した。
「百合さん。これ、父さまとねえさまと僕からです。」
 
「まぁ、絳攸からも?」
意外なその名前に本人のほうを見遣ると、
昔と同じように顔を赤く染めて、そしてそっぽを向いている。
そうして相変わらずこっちは向いてくれないままで、
俺の母親は百合さんだけですからと呟いたのが聞こえた。
そんな絳攸の言葉に返事をする代わりに、百合は小さな二人を抱きしめる。
「ありがとう、みんなが居てくれて、私は幸せよ。」
胸がいっぱいでそれ以上の言葉が出てこない。
 
世の中にこんな幸せな事があると教えてくれて、ありがとう、唯それだけを伝えたい。
 
その夜は秀麗と優楓の手料理を5人で囲んだ。
別邸から母屋に戻る際に百合はふと振り返る。
家の灯がこんなにも暖かだとは知らなかった。
紅州でふて腐れて待っている
我儘で不器用で寂しがり屋の夫のもとへ早く戻ろう、そう思った百合であった。
 
 
あとがき、という名の言い訳
 
母の日合わせのお話のつもりでしたが、百合さんの愛のお話になってしまいました。
紅茂草とはカーネーションのことです。
カーネーションの和名(漢名?)は他にもあって、
和蘭石竹とか麝香撫子などというのですが、
私としては紅茂草が使いたかったのです。
紅家の益々の発展を祈念して(笑)
 
当サイトのお客様にはママの方も多く、
家事に育児にお忙しい中で、
感想や応援メッセージを頂けることが、本当に力になっております。
 
そんな皆様へ、感謝と愛をこめまして、お花のかわりにこのSSを捧げます。
2010年5月7日 小鈴
 
 
 
 
 
 

 
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