絳攸VS狼
 
繊月の零れネタです。
本文中に入れたかったけど、入れるとぶち壊しになるので、泣く泣く切ったエピソード。
繊月のネタばれになるので未読の方はご注意を。
注意:おふざけです。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
お義父さんはオオカミ~絳攸の場合~
 
 
 
 
 
紅邵可邸。
幾度となく訪れたこの屋敷。
しかし絳攸が主の室に通されることは滅多になかった。
其処此処にうず高く積まれた本は、
国試受験前の秀麗の室にも、また自分の室にもどこか似ていて、少しだけ懐かしいにおいがする。
 
それなのに、何だか落ち着かないのは、ひとえに自分の心に疚しさがあるからだろう。
そう思い絳攸はそっと息を吐く。
そこに邸の主がお茶を持って戻ってきた。
 
秀麗も静蘭も手が空かないはずだから、あれは、邵可様直々に入れたお茶だ、と絳攸は即座に理解した。
養い親と違って、あのお茶を歓喜の涙と共に飲み干す趣味は絳攸にはない。
とにかく早く話をしよう。
そう思った傍から、まずはお茶でもと言われ、仕方なくなみなみと茶の注がれた丼に手を伸ばす。
今日のお茶は、また一段と苦味が効いている、ような気がする。
それに邵可様のお召し物は、先ほどと少し違うような……。
さっきはあんな黒い襟が出ていただろうか?
そう思いながらも絳攸は、口を開いた。
 
「邵可様、お話ししておかねばならないことがございます。」
「ほう、なんですか?」
今日の邵可様の眼差しは、どことなく黎深さまを思わせるのは気のせいか?
 
「そ、その……。昨夜、他の官吏に絡まれている秀麗を保護しまして…。」
「……それは、ありがとうございます。ところで、あの子は昨日どこで過ごしたのでしょうねぇ。」
室内なのに冷たい風が向かいから吹き付ける。
いくらこの屋敷がぼろぼろとは言え、季節は春である。
軒に揺られている間は、麗らかな日差しであったはずだ。
おかしい。
おかしいけれど、邵可様は気付かないのか、いつもの、のんびりとした口調で話を続ける。
 
「さて、絳攸殿、話していただけますね。」
室を覆い始めたなんだか得体のしれない黒い渦に、
絳攸は我を失い、邵可の前に土下座する。
 
「結果的にとはいえ、送り狼になってしまいました。責任とって結婚させてください!!」
「送り、、ですか。」
邵可の言葉の後に、シャキーン・ピカーンと効果音が流れる。
訝しんでそっと顔を上げた絳攸が目にしたものとは……。
 
黒い装束、手には得物、そして逆光になるように背中に負われた光。
「奇遇ですね…。私も、狼なんですよ。」
「しょ、邵可様?」
「黒狼と言えば、ご存じでしょうか?」
「で、伝説の、風の狼…?邵可様が?」
「随分と前に廃業したのですがね。
嫁入り前の愛娘に手を出されたとあっては、黙っていられません。
絳攸殿、お覚悟!」
 
邵可の手を離れた三本のクナイが自分のほうに向って飛んでくるのを、
酷くゆっくりと感じながら、絳攸は自分の人生を思い返していた。
 
俺は、幸せだった。
黎深さまに拾われて、
無理難題を度々押し付けられて、
職場でも自邸でも苦労を背負わされて…。
あれ?
幸せか?
いやいや、百合さんに会えて、
秀麗に会えて、
ついでだからあの常春にも会えて、
まぁ、拾われる前よりは幸せだった、
と思いたい。
なんだか、釣り合いが取れていない気もするけれど、
せめて成仏したいから、
あまり思い残すようなことは考えないことにしよう。
そう思いながら目を閉じる。
あぁせめて苦しくありませんように。
 
たん、と小気味良い音が三つ連続して聞こえて、絳攸は目をあけた。
自分の膝の前に綺麗に一直線にクナイが突き刺さっている。
これはもう、職人芸の域だ。
そんな事を思いながら、そっと邵可に視線をやる。
 
そこには、府庫で見るような、穏やかな笑顔。
 
「ははは、ちょっと驚かせてしまいましたかね。
一度花嫁の父というヤクドコロをやってみたかったのですよ。
それなのに秀麗と来たら、浮いた話の一つもなくて。
絳攸殿のおかげで夢がかないました。」
 
それだけ言うと邵可は、
静蘭に見つからないうちに着替えるのでこれで失礼します、
結婚は当人同士の問題ですからどうぞ秀麗と話をと言って去って行った。
 
絳攸は邵可と黎深は確かに兄弟なのだと妙な所に納得しながら、
自邸に戻る軒に乗り込んだのであった。
 
 
 
あとがき
今回は“あとがき、という名の言い訳”ではありません。
なぜなら、申し開きできないからです。
ただ、書きたかった。
どうしても、衝動を抑えきれなかった。
それだけです。
 
こっそり絳攸についてきていた“影”の人々が、
「おい、どーすんだよ。
絳攸さまと邵可さまなら優先順位は邵可さまといわれているが、
でも助けないと絳攸さまの運動能力じゃ、死ぬぜ。」
とか言いながら責任のなすりつけ合いをしていると、もっといいと思います。
 
邵可様ファンの方々申し訳ありません。
 
 
 
 
 
 
 
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