*under the rose*

 

 
 
  *under the rose*

 
十三姫は怒っていた。
これもそれも静蘭が悪いのよ、と朝の出来事を思い出して独りごちる。
そして不快そうに眉根を寄せた。
こんなときは遠乗りにでも行ってスカッとしたい。
大好きな馬に乗って晴天の下を走り回れば少しは気が晴れるに違いない。
だけどそんなことをしたら、また静蘭にネチネチと小言を言われるに決まっている。
想像するだけで眉の間に皺が一本増えそうだ…
そもそも我が夫は過保護過ぎるのだ。
彼の秀麗に対する過保護っぷりは結婚前からうんざりするほど目にしてきた。
が、それが自分に向けられる日が来ようとは思ってもいなかった―結婚当初は。
夫婦になった当初は此処まで過保護ではなかったはずなのに、初めは遠慮がちに、
そしていつの間にか事ある毎に「危ないですから止めてください」「もう少し大人しくしていてください」と口煩く言われるようになってしまっていたのだった。
それが彼なりの愛情表現だと分かるし、十三姫とて本気で心配されて嬉しくないわけではない。
だけど…
(なんか反抗したくなっちゃうのよね)
今日の喧嘩もきっかけはほんの些細なことだったのに、過剰に心配する彼につい反抗してしまい、彼の機嫌を損ねた。
険悪な中出仕していった夫はどんな顔をして帰ってくるだろうか。
朝のまま不機嫌な顔?
それとも何事も無かったように完璧な笑顔?
できれば後者でありますように。
矜持の高い彼と意地っ張りな自分、どちらもきっと謝罪の言葉を口にできないだろうから―…
―――――――――――――
「…一体これは何?」
帰宅した夫の姿を見て、出迎えた十三姫は怪訝そうな表情を浮かべた。
「何って…薔薇の花束ですが」
喧嘩をする度に彼は花束を持って帰ってくる。
もはやお約束のようになったこの花束は彼なりの仲直りの意思表示だ。
だが、今日の花束はいつもと様子が違う。何かがおかしい。
「そんなの見れば分かるわよ。私が言いたいのは何で薔薇なのに棘が無いのかってことよ」
そう、夫の腕の中の薔薇には棘が全く無いのだ。
薔薇なのに棘が無いなんておかしい。
凛として美しい花なのに、棘が無いせいでどこか滑稽にさえ見えてきた…
「さぁどうしてでしょうね?ところでお気に召しませんでしたか?」
完璧な笑顔を浮かべてはいるが、夫の反応は明らかにアヤシイ。
どこが怪しいかって?
そりゃ、あの完璧な笑顔が一番怪し過ぎるに決まっている。
何かある度にあの笑顔で丸め込まれ続ける十三姫の感が"アヤシイ"と感じているのだ。
間違いない。
このまま丸め込まれるのは癪に触る。
けれど、ここでムキになって問い質せば、きっと夫は機嫌を損ねてしまうだろう。
さてどうしたものか。
「…ううん、嬉しいわ。ありがと、静蘭」
「お気に召していただけたようで良かったです」
珍しく素直な妻の反応に静蘭はホッとしたような笑みを口元に浮かべた。
そして花を手渡そうと歩み寄った次の瞬間、静蘭の腕は細い指によってがっちりと掴まれていた。
間近にある妻の顔には勝ち誇ったような笑み。
丸い大きな瞳の先には夫の指先。
その瞬間静蘭は悟った―彼女が全て気付いたことに。
「…どうかしましたか?」
ばつの悪そうな顔を浮かべる夫を見て、十三姫は満足げに笑う。
「何でもないわよ」
邸の中に入りましょう、と腕を引っ張られる。
この花を生けたら傷の手当てをしてあげよう。
自分の手を守るために傷を負った、過保護な夫の手を。

気付いた秘密は胸の内に
薔薇の下でのお約束
 
【終】

 

*SpringTime*のちぃさまの作品です。
オフ本原稿ができないできないと騒ぎたてていたら、
相互記念&陣中見舞いということで、
なんと!静十を書いてくださいました。

静十静十騒いでいて良かったよ。

しかもうちのサイト名Rosaceae(バラ科)にちなんで、Roseのお話。

ちぃさん、ありがとうございます!

*SpringTime*さまでは、愛され秀麗ちゃんが沢山拝見できますので、この作品の感想も合わせて、ぜひ一度足をお運びください!

オンリーでお会いして興奮のあまり抱きついても許してください。

 

 

 

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