いがみ愛

 

よひらいろのまがりさまが恵んでくださった、素敵静十です♪

 

 

 

いがみ愛

 

貴妃である秀麗が回廊を歩いていると、久方ぶりに見る生家の家人が。

「静蘭!!ひさしぶりね」

「ご無沙汰していました、お嬢様。・・・いえ、貴妃様」

「やめてよ、もう。それよりどうかしたの?」

微笑んだままの表情に、ぴしっとひびがはいった。

「あの・・・申し訳ないのですが、多分うちのがご迷惑をおかけすると思いますので・・・」

笑顔でため息をつきながら渡されたのは、男気あふれる1本の酒瓶だった。

 

 

私室へ戻ると、部屋の前の回廊の手すりに腰掛け、ぶらぶらと暇をもてあましているらしいひとりの姫がいた。

ゆらゆら揺れる脚の動きがぴたっととまり、その身軽な身体が「秀麗ちゃん!」という元気な掛け声とともに飛んできた。

「十三姫っぐっ!!」

「あっごめんなさい」

「いえ・・・」

勢いあまって倒れこみ押し倒された。まあいつものことだ。

はたと当初の目的を思い出したらしい藍色の姫は、にやりと笑った。

「今晩、付き合ってもらえるかしら」

ゆっくりと持ち上げられた右手には、しっかりと男らしく酒瓶が握られていた。

「ああもう珠翠義姉さまも呼んじゃおうかな!!」

ぷんぷんとにぎやかな十三姫の姿を見て、秀麗はくすりと笑った。

それに気付いた十三姫はつんと秀麗に絡み付いた。

「なーに?」

「いや…ふたりとも仲いいんだなあと思って」

「どこが!!」

「うちの妻とかうちの旦那とか、お互いがお互いを手放す気が全くないところですかね」

「……。」

「十三姫にも静蘭にも、ずっと一緒にいられるひとが出来たのが嬉しくて」

にこにこと話す秀麗を見つめること数拍。根負けしたようにはああと息をついた。

「…秀麗ちゃんは、好きなひとに好きとか、普通に言えるでしょう?

でもあたしたちはそういうのがお互いに下手くそで、ただ大好きが言えないかわりに余計なことばっか言っちゃうのよ。きっと」

結婚までしておいて何をいうのか、と我ながら思うが、好きと素直に言えない自分が嫌になる。

そしてあのひとに対してここまで頑なになってしまうのもきっとあのひとも自分と似たようなところがあって、同族嫌悪のような気持ちになってしまうのだろう。

例えば、眼前の姫を大切に思ってしまうところも。

「言ってあげればいいじゃないですか」

「でも!それにしたってなんでちょっと薄物の服を着ただけでぎゃーぎゃー言われなきゃなんないのよ!!

ちょっと頑張っておめかしすればなにがあったとか・・・・・・!…」

きゃあきゃあと楽しげに、夜は更けていく。

そんな貴妃の部屋の裏手で。

「…あに・・・、静蘭。・・・顔を出さずともよいのか?」

なかったはずの気配がさっとにじみ、木陰からひとりの武官が顔を出した。

…気付かれるつもりはなかったのだが。

「…主上。こんなところで偶然ですね」

「静蘭は十三姫に好きと言っていないのか?」

うっとつまる。

逃げようと思ったのに逃がしてもらえなかった。

「…主上は、おっしゃっているのですか?」

「当然だ。びっくりするくらい言いまくってるぞ!・・・秀麗からは、あまり、言ってもらえないが・・・」

急激にテンションが下がった一国の主をいつものようにハイハイと慰めながら内心で笑みを漏らす。

・・・自分もこれの1割でも素直さがあったら、こんなことにはなっていないのかもな。

そうは思うけれども、・・・これはこれで、ねじまがった自分達なりに円満なのではないかとも思う。

きゃーという笑い声が聞こえてきて、今夜は長くなりそうだと微笑む。

「では主上、参りますか?」

「へ?なんなのだ?」

「どうせあの様子だと今晩主上が入り込む隙間もないでしょうし。どうせなら妻のいないところでふたりでお酒でも飲んで明かしませんか?」

パア、と花が飛ぶ。

「うむ!では女官に室と杯を用意させるからな!どうせなら絳攸や楸瑛も呼んで、楽しくやろう!!」

そういって駆けていく弟をほほえましく思いながら、いまごろ自分達を肴に盛り上がっているであろう大切な女人を思いひとこと、

「・・・愛していますよ」

とだけ呟いて、静蘭もその場から立ち去った。

 

【了】

 

 

ぎゃー素敵静十!

主上も幸せそうでうれしい!

こんな素敵なものをぺろっと恵んでくださるまがりさまは、天使だと思います。

まがりさまは、楸珠とか、藍家とか私の心を冷静でいられなくする素敵ネタを多数提供されており、私は何時もアクセスするたびに奇声をあげております。

まがりさま、ありがとうございました!

 

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