It's a beautiful cage

 

presented by 小鈴(Rosaceae)

 

 

登場人物と設定

静蘭×十三姫 夫婦

あとはチョイ役
李姫夫婦・楸珠夫婦・影香婚約済み・おまけの燕青
なぜかみんなでリゾート。
ちっちゃいことは気にしない。


リゾート気分のゆるーい視点でお楽しみください。

それではどーぞ



It's a beautiful cage




青い空、白い砂浜、抜けるような青空。
水上に張り出すようにして建つヴィラ。
太陽が放った光の妖精が波間ではしゃいでは笑い声を上げるように、きらきらと輝いている。
気温は高いけれど、適度に乾いた風が海の涼を室内へもたらす。

頭上で、ベッドの天蓋がさやさやと揺れるのを十三姫は見ていた。

まるで檻のように自分を閉じ込めているのは、夫の腕。
そして自分を見下ろす夫の顔は、今日も相変わらず美しい。

その目に宿る光は、まるで獲物を狙う獣。
捕らえられたら、逃げる事など能わぬ。
美しく、狡猾で獰猛な、獅子の王。

そんな檻に囚われながらも
十三姫は頭の半分でまったく別のことを考えていた。

室内ですらこんなに心地が良いのだから、
ビーチに出ればもっと楽しい事が起こるはず。
秀麗ちゃんと遊びたいな~。
というか、今頃秀麗ちゃんと水際で楽しい時間を過ごしているはずだったのに。

「……、姫、聞いていらっしゃいますか?」
「聞いてるわよ」
「ではご理解いただけたということで、よろしいですね」
にっこりと、それでいて有無を言わせぬその言葉。

しかし、十三姫にとってもここは譲れない。

「冗談じゃないわ!
どうしてここまで来て、海にも入らないで一人見てなくちゃいけないのよ?」

「おや、先程の私のお話を聞いていただけていなかったのですか?」

「聞いてたからって、納得できるとは限らないじゃない」

というか、この件に関して納得する気などさらさらない。
それに、先程から言われ放題で
全く反論もさせてもらえないが、十三姫とて、言いたい事はあるのだ。

「大体どうして人のスーツケースを勝手に空けたりするのよ?」

「姫が荷物を放り出して、海を眺めに行ってしまったからですよ。
そのままでは服が皺になってしまう。
きちんとクローゼットにかけて差し上げようと思っただけです。
それとも姫は、皺だらけのドレスでディナーに望むおつもりだったのですか?」

「そ、それは、後できちんとしようと思って……」

痛いところを突かれた。
確かに開放的な景色に、荷物を放り出してバルコニーへ走り出したのは自分だ。

それは自分が悪かった、几帳面な夫にしてみれば、
まずは荷物を解くのが先と思ったのはわかる。

わかるけれど。

「だからって何で水着まで見るのよ?」

「見るも何も、一番上に入っていたのですから」

そう言われれば、確かに、そうだったかもしれない。

秀麗と香鈴と三人で買い物に出かけて、新しい水着を買ったのだ。

それは、出発前日の事。
だって、折角の旅行、可愛い水着で楽しみたいじゃない?
けれど、その新しい水着のせいでこんな事になるなんて思いもしなかった。

そう、この地上の楽園に相応しからぬ穏やかでない空気。

これは全て件の水着がもたらした物。


バルコニーから上機嫌で戻った十三姫が目にしたものは、
腕を組みベッドの上を見つめる夫の姿だった。

一目見て解った。
良くない状況だと。

だからそっとバルコニーに戻ろうとしたのだけれど。

「どちらにいらっしゃるのですか、姫?」

いつの間に間合いを詰めたのか、耳元でそっと囁かれる。
顔と同じく、無駄に美しいその声で。

覚悟を決め、ひとつ、深呼吸をして振り返る。
「あらやだ、どこにも行くはずないじゃない」
「そうですか、それは都合が良い」

その言葉を聞き終わらない内に、自分の体が中に浮いた。
気付けば静蘭の腕の中。

そうして室内へと戻った静蘭は、ゆっくりと、
しかし抵抗できないように十三姫をベッドの上に降ろす。

そして、ただじっと見つめられる。

 

後編





この沈黙は、苦手だ。
黙っている時間が長ければ長いだけ、余計な事を言ってしまいそうになる。

そして今日も、沈黙に耐え切れなくなったのは十三姫のほうだった。
「な、なにかしら?」

漸く発した声はしかし、微妙に声が裏返ってしまった。
「姫、アレは何ですか?」
「なにって、見た通り、水着よ? 一緒に海に入るって秀麗ちゃんとも約束したし」


再びの沈黙。


今度は静蘭が口を開く。

「駄目です」
「は? 何が駄目だって言うのよ?」
「どこもかしかもです。何ですかアレは?
もっと、こう、布地の分量の多いものもあったでしょう? 
それにこの紐、こんなもので海に入って、波で解けたらどうするんですか?」

つまり、この我儘で過保護な旦那様は、十三姫の選んだビキニの露出度が高いとお怒りなのだ。


「別に良いじゃない。プライベートビーチで身内ばかりなんだし」
「駄目です。燕青や絳攸殿、影月君もいるのですから」
「誰も私のことなんて見ないわよ」

あなたが怖くて、とは口には出さない。
それに、絳攸は秀麗に、影月は香鈴に夢中だから、そんな心配も必要ないと思うのだが。

「姫はご自信のことを少しも理解しておられない」

どれだけ貴女が魅力的か教えて差し上げる必要がありますね。
十三姫の身に纏うサンドレスの裾に手を掛けながら、獣の目が妖しく光った。



翌日、水際ではしゃぐ女性陣を見ながら楸瑛が溜息をつく。
「全く、水着なのが香鈴殿だけとはね」
折角の海なのに、と続けかけた楸瑛は、珠翠に一瞥されて黙る。

「ほんとさぁ、お前の過保護っぷりも、どうかと思うぜ」
そう言って静蘭を見遣る燕青に、静蘭は冷たい視線を返す。

「何を言っている、大切なお嬢様と可愛い妻を守るためだ。
お前のような害虫からな。
それに、姫に関しては、自分で上着を着ることを選んだんだ」

着ざるを得ないような状況にした事など、その場の誰もが容易に想像がついたが、
それにあえて触れる命知らずもいない。

代わりに燕青が続ける。

「いやいや、百歩譲ってお前の十三姫さんは良いとしよう、お前の嫁さだからさ。
けど姫さんはもう、旦那さんがいるんだから、お前がでしゃばるのは筋が違うだろ」

そう言って燕青は絳攸を見る。
しかし絳攸の怒りの矛先は違うところに向いていたようで。

「おい楸瑛、お前の妹は何を考えているんだ? 
あ、あんな水着を秀麗に着せようだなんて……」

十三姫が秀麗に見立てた水着は秀麗にとても良く似合っていた。
細い腰を引き立たせ、やや寂しい胸元をカバーして、
それはもう、男心をそそる事この上ないものだった。

茫然と立ち尽くす絳攸を尻目に、静蘭がパーカーを着せなければ、の話であるが。


絳攸が楸瑛への抗議に気を取られている隙に、
静蘭は燕青に向かい自分は間違っていないという視線を呉れてやる。


「ま、結局兄君の監督不行き届きという事ですわね」
珠翠の言葉にその場にいるものの視線が一斉に楸瑛へと集まる。
「え? 珠翠殿、それはいくらなんでも……」
まさか止めを妻に刺されるとは予想だにしていなかった楸瑛は、
夏のせいではない汗が背中を流れ落ちていくのを感じる。

「どうでしょう絳攸殿、少しばかり、楸瑛殿に反省していただくというのは」

静蘭の言葉に、絳攸もそうだなと頷く。

殺気を感じた楸瑛は立ち上がり、逃げるが勝ちとばかりに駆け出して、
十三姫と秀麗の元へと助けを求めに行く。

静蘭と絳攸が追いかけるけれど、
十三姫と秀麗という最強の見方を手に入れた楸瑛に、静蘭と絳攸も手が出せない。


結局みんなで水遊びを始めた六人を見ながら、
「平和って良いですね~」という影月の言葉にしみじみと頷く燕青と珠翠だった。

【了】



あとがき、と言う名の言い訳

リゾート静十編、いかがでしたでしょうか?
このメンバーだと、燕青があぶれちゃってかわいそうかしら?と思ったのですが、
実際可哀想だったのは別の人みたいです。
いつもいつもすまぬのう(笑)

リゾート企画は素敵ゲストさまをお迎えして、まだまだ続きます♪
今回ちらりと登場したカプも某さまの素敵作品で登場予定です。

次は誰のどんなお話か、お楽しみに☆