片恋ゆえに拒否
3. 見つめないで
「質問があります。」
そういう時の彼女の瞳は決まって真っ直ぐ俺を見る。
それは俺を見ているようで見ていない。
彼女は俺を通じて、見ているのだ。
女人の身では受験すらも叶わぬ国試。
それを受験し、上位で及第し、そして官吏として民の身では叶わぬ力を振るう。
彼女が欲するのは自分のための力ではない。
彼女は王位争いの際の苦しみを身をもって知っている。
幼い少女は涙が枯れるまで泣いて、そして、決意した。
同じ苦しみは二度と訪れさせたくないと。
だからこそ官吏でしか振るうことのできない、民を守る力を強く強く欲しているのだ。
その高みを目指すことを手伝ってやれることを、誇りに思う。
彼女も自分の弟子であることを誇りに思ってくれている。
そして彼女はいつものあの真っ直ぐな瞳で言うのだ。
「絳攸さまは、私の目標です。」
その言葉が嬉しいと同時に、悲しい。
彼女が見つめ、彼女が戦力で追いかけるもの。
それは自分であって自分ではない。
李絳攸という官吏は確かに彼女の瞳に映っている。
けれど、官吏という地位を離れた、ただの男としての李絳攸は、どうだろう。
自分が官吏という立場にいなければ、彼女が仮の貴妃として入内しなければ、
彼女が自分を知ることはなかった。
だから、後悔などしていない。
けれど今は、少し辛い。心にともった炎を自覚してしまったから。
俺を見ろ。官吏という器ではなく、李絳攸という中身を見ろ。
そう言ってしまいたくなる衝動。それも一度や二度ではない。
けれど、今は時期ではない。焦りは禁物。
ゆっくりと手を引いて官吏という階段を上るようにしながら、その実自分のほうに向くように。
彼女が唯一無二の人だから、時間などはいくらでもある。
ゆっくりと、精密に、巣を張り巡らせる蜘蛛のように、そうして必ず捕えてみせる。
けれどその瞳に見つめられると、揺らぐ。
何もかもかなぐり捨てて、今すぐに抱きしめてしまいたくなる。
だから、いまはまだ、そんな瞳で俺を見るな。