My Sweetie
「バレンタインデーに秀麗殿から菓子をもらっただろう?」
バレンタインデー。その言葉には聞き覚えがある。
そうだ。確か秀麗が手作りの菓子をくれた。
そしてそのあと菓子よりも甘い時間を過ごしたのだ。
そのことを思い出し、知らず頬が緩む。
その様子を見た楸瑛は早くもこの話を振ったことを後悔し始めた。
「……、あぁ確かに菓子をもらったな。それがその、ほわいとでー?とどう関係するんだ?」
絳攸は楸瑛の後悔になど気付きもしないで、聞いてくる。
「……、そう、ホワイトデーの話だったね。
バレンタインデーに菓子をもらったら、ひと月後にその女人にお返しをするんだ。
その日がホワイトデーさ。」
「つまり、俺から、秀麗に、菓子を贈るということか?」
「まぁそういうことになるね。秀麗殿の好きな菓子かに何かでいいんだよ。」
その言葉に絳攸は困ったという表情をした。
「まさか、絳攸、君、秀麗殿の好きな菓子も知らないのかい?」
「知っている。知っているが、それを秀麗にやることは不可能だ。」
知っているのに、あげられない、どういうことだろう。楸瑛にはわけがわからない。
「……絳攸、それはどういうことかな?」
「だから!菓子はいつも秀麗の手作りなんだ。それを秀麗にやるというのはおかしいだろう。」
「確かに。そうだねぇ。」
どうしたものか。男二人の間に微妙な沈黙が流れる。
そこに第三の男が音もなくあらわれた。
「そういうことなら、お役にたてないこともないですよ。」
背後から突如かけられた声に、振り返る二人。
「弟子二人確保完了ですね。」
そう言って静かに微笑む笑顔。その表情とは裏腹に、絶対に逃がさないという空気。
こうして今上陛下の覚えもめでたい側近二人は、
期せずして元公子様のお菓子教室に入門することになったのである。

My Sweetie ③ に続く

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