幾望2
心地よい揺れに身を任せたまま、連れて行かれたのは、右林軍将軍に与えられる、楸瑛の個室。
机の上には書類が整理され、活けられた花も、華美過ぎず地味すぎずしつらえられた調度品も、
全て楸瑛その人のようだ。
そっと長椅子の上に横たえられる。
先ほどとは違い、真実いとおしむ様に、瞼に、耳に頬にと口づけられ、
やがて彼の唇が、首元へと降りていく。
彼の唇は先ほどの冷たかったそれとは別物のように熱を帯びている。
襟元に優しく手をかけられる。
「秀麗殿。いいね。」
流石にその言葉の意味がわからぬほど子供ではない。
どういうつもりか知らないが、彼はこのまま一線を越える気なのだ。
だが、あの人でないのなら、どんな形でも同じこと。そう思い、頷く。
ただ、すぐに、ただし、と付け加える。
「その間だけでいいです。忘れさせてくださいますか?」
心からの願い。
焦がれて、ただ焦がれて、届かぬ思いと何度も突きつけられ、
それでも笑顔で彼の人の傍にいることに疲れ果てた。
ひと時の夢でいい。この苦しみから逃れたい、心底そう願った。
「秀麗殿さえ覚悟をしてくれるなら、いくらでも夢を見せてあげると約そう。」
その目に浮かんだのは、憐憫か、同情か。
お互い悲恋とはいえ、好敵手への微かな嗜虐心もあるのかもしれない。
だが、もう全てがどうでも良くなってしまった。
「それでは楸瑛様、夢を見させてくださいませ。」
発するのが自分では、とても蠱惑的とは言えまいが、精一杯悪女を演じたい。そんな気分だ。
とても様になどなっていなかった筈なのに、楸瑛は熱いまなざしで答えてくれる。
「それでは姫君、極上の夢を、伴に。」
そう言うが早いか、楸瑛は手慣れた様子でするすると秀麗の衣を解いていく。
白日の下に晒された己の肢体は、あまりに貧相で、つい、腕で隠してしまう。
その腕を頭の上に縫いとめられる。
「秀麗殿、綺麗だ。」
「…楸瑛様はもっと嘘がお上手と思っておりました。」
「嘘などではないよ。これほど白く肌理の細かい肌。
折れそうなほど細い腰。全て女人だけの特権。美しいよ。それに…」
そう言うと、僅かばかりの胸の双丘に、熱くそして優しく唇を落とされる。
先端の果実を舌で転がされ甘噛みされると、体に痺れが走ったようになり、我知らず腰が跳ねる。
楸瑛はそれを見て小さく笑う。
「小さいのを気にしているなら、豊かになるように喜んで協力するよ。
それにしても少しばかり触れただけでその反応とは、敏感なことだ。」
そう言われると先程の自分の反応が急に恥ずかしくなる。
「…や、敏感なんて、そんな…」
急いで否定しようとするが
「秀麗殿。初めてなんだろう?すべて私に任せていればいいから。」
そう言ってまるで本物の恋人にでもするように、極上の微笑を浮かべられると、
甘い時間を過ごしているような錯覚に陥る。
そしてこわばっていた肢体から、自然と力が抜けて行く。
「そう。それでいい。すべて私にまかせて。」
そう言うと楸瑛は、再び愛撫を開始した。
鎖骨に、臍に、腰に、腿に。
はじめはくすぐったかっただけの秀麗だが、
いつの間にか自分の口から聞いたこともない甘やかな音が漏れ出ているのに気づいた。
口を塞ぎたいが、楸瑛の右手によって両腕を戒められているために叶わない。
なんとか声を出すまいともぞもぞとしている秀麗に気づいた楸瑛が耳元を舐めるようにしながら囁く。
「秀麗殿。声、我慢しなくてもいいのだよ。その声は男をそそらせる声だ。まるで私を誘っているようだよ。」
その言葉に、下腹部がきゅっと収縮するようになり、熱を帯びたのを感じた。