幾望3
楸瑛はその反応すらも見逃さなかったようで、
空いている左手で、秀麗自身すらも触れたことのない秘密の蕾へと手を伸ばす。
「本当に初めてなんだね。堅く閉じている。でも、少しずつ潤ってきているよ。」
なんだかとても恥ずかしい事を言われたということだけは理解できた。
反射的に、開かれた両足を閉じようとする。
「おや、秀麗殿恥ずかしいのかい?でも駄目だよ。これから私ともっと恥ずかしい事をするのだから。」
そう、覚悟を決めたのは君自身と残酷な事実を突きつけられる。
ここにいたって浮かぶのは、あの人の笑顔。
堰を切ったように、両の眼から生暖かいものが溢れ出した。
これには流石の楸瑛も驚いたようで、戒めていた両の手を放し、
その胸に秀麗を抱き上げるようにして衣を肩にかけてくれた。
「…秀麗殿。泣かないで。」
「藍将軍…、申し訳ありません。わたし、酷い事を…。」
「私も同罪だからいいんだよ。寂しくなったらまたおいで。今度はやめてあげられないかもしれないけれど。」
楸瑛は優しい。心底優しい。
それに付け込んで利用しようとした自分が情けなく、惨めで、こみあげてくる嗚咽が止まらない。
楸瑛はただ宥める様に背中を撫でていてくれた。
そのまま、どれほどの時がたったのであろう。
急に、室の扉が開かれた。
断りもなく室内に踏み込んでくるその人に、驚きを隠せない。
だが、楸瑛は予想していたかのように一言を放った。
「絳攸、随分遅かったじゃないか。」
また迷ってでもいたのかい?と揶揄を含んだ言葉に答えるつもりは、絳攸にはないらしい。
「楸瑛、お前、何をしている。」
「野暮なことを聞くね。私と秀麗殿は恋人同士だよ。君には何をしているように見える?」
「お前の遊びに口を出すつもりはない。だが、秀麗は別だ。秀麗はそんな遊びで軽く扱っていいような女じゃない。」
「随分な言われようだね。私と秀麗殿の関係は君も知っての通りだ。合意の上の行為だとは思わないのかい?」
「そうだとしても、その涙はなんだ?秀麗を泣かすのは許さない。」
「男と女の間は複雑なものだよ。時に涙の一つや二つ、流す時もあるさ。」
そう言いながら楸瑛は挑発するように、秀麗を抱き寄せる腕に力をこめ、秀麗の髪に指をからませる。
ぷちん、と何かが切れた音が聞こえたような気がした。
「もしも本当に愛する女人なら、涙など一粒も流させぬように、大切にするのが男というものだろう。
それができないというなら、俺は認めないぞ。秀麗、こっちにこい。」
そう呼ばれても、衣を身につけていないので身動きのとりようがない。
見かねた楸瑛が、溜息を一つつくと、
「秀麗殿。この場はいったん引かせてもらうよ。」
そう言うが早いか、窓からひらりと出て行ってしまった。
絳攸は追いかける様に一旦は窓際まで駆け寄ったものの、
楸瑛相手に追いかけるのは無駄と悟ったのか、
長椅子のほうに、すなわち秀麗のほうに寄ってくる。
あわてて肩にかけただけの衣を掻き合わせたが、
それでもその衣の下がどのような状態なのかは一目で見てとれたらしい。
何故だか見られた秀麗よりも見てしまった絳攸のほうが顔を真っ赤にして背を向ける。
そしてとにかく衣を身につける様に言われた。
最悪の事態に頭がうまく回らない。のろのろと衣を身につける間も、絳攸は何かと話し続ける。
常はどちらかというと無口な彼らしくない。まるで沈黙を恐れてでもいるようだ。
「秀麗。俺は…、邪魔をしたのか?」
この状況でそんな事を聞くなんて、彼はどうかしている。
明晰な頭脳が恋愛方面に発揮されないことは、わかっていたがここまでとは。
「普通に考えれば、そうだと思いますが…。」
つい怒ったような口調になってしまう。そのくらい許されてもいいはずだ。
「秀麗。お前は本当に…、」
一度は言い澱んだ絳攸だったが、意を決したように言葉を発する。