楸瑛は絳攸に言われるがまま、その場所へと向かっていた。
先ほどまでのラフな出で立ちとは違い、二人ともスーツ姿である。
「キミの家の会社のパーティーねぇ。何をそんなに嫌がることがあるんだい?」
心底疑問そうな楸瑛の問いに、絳攸はしばし逡巡ののち口を開く。
「そんなところに図々しく出ていけるような身の上じゃない。
俺は、これ以上お二人の迷惑になるようなことはしたくないんだ。」
楸瑛はそれは違うと思ったが、あえて口に出すことはしなかった。
この件に関しての絳攸は、常以上に頑なで、他人が何を言っても聞く耳を持たない。
これは、絳攸自身と養父母が解決すべき問題だ。
代わりに、別の疑問を口にする。
「だけど、それならいいのかい?秀麗ちゃんを無理に連れだせば、母君の顔を潰すことにならないかい?」
「俺が顔を出して挨拶をすれば、百合さんも満足してくれるだろう。」
溜息とともに吐き出された絳攸の言葉。
それをかき消すように楸瑛が言う。
「それでは、お姫さまの奪還に向かうとしますか。」
秀麗の姿は、すぐに見つけることができた。
まずもって、百合が人目を引く華やかな人だ。
その百合の傍にいることで秀麗もすぐに見つかった。
そして、その姿を見た絳攸は息をのんだ。
それは、隣の友人も同じだったようで。
「見立てに間違いがないのは認めるが、あれはいささか目立ちすぎではないかい?」
女性に関して見る目の肥えている楸瑛をしてそう言わしめるほど、秀麗の姿は艶やかだった。
真紅の布地は秀麗の透けるような白い肌を際立たせ、
大胆に開かれた背中は腰にかけての、細くしかし男性にはない曲線を強調する。
頭頂部で一つに纏められた真っ直ぐな黒髪が白磁の如き肌に映え、
他のジュエリーの存在など必要ないと告げている。
首周りはゆったりとしたホルターネック。
そのドレープと、胸元に幾重にもあしらわれたスパンコールが
同年代の少女たちに比べるとやや見劣るする秀麗の胸元を、うまくカバーしている。
何よりもスカート部分に重ねられたフリルが、彼女の持つかわいらしさを引き立たせている。
少女と女性の中間にいる秀麗の美しさが際立って、会場内で彼女に目を留めないものはいない。
「……、楸瑛。」
「なんだい?絳攸」
「手、出すなよ。」
「おいおい、確かに今日の秀麗ちゃんは特に魅力的だけど、きみのものを奪い取るようなまねはしないよ。
だけど、早く助けてあげないと、他の男性陣は私のように遠慮深くないかもしれないよ。」
「わかっている。念のため、確認したまでだ。……、楸瑛、今日は助かった。礼は今度必ず。」
そう言い残すと、絳攸はいつの間にか輪の中心になりつつある秀麗のもとへと足早に向かった。