コノヨノシルシ6-5
 
 
 
 
 
 
 
百合の言ったとおり、秀麗の心配は杞憂に終わった。
百合の隣にいるだけで、紹介は百合がしてくれたし、
あとは聞かれるがままに父のことや進学のための勉強の話などをしているだけで、
和やかに時間は過ぎて行った。
 
ほっと安堵したその時、不意に後ろから腕を捕まれた。
驚いて振り返ると、絳攸が怒りを隠そうともせずに立っている。
そういえば家庭教師の日だったのにすっぽかした上連絡もしなかったと思いだし、
急いで詫びようと口を開きかけた。
だが、それよりも先に、絳攸が百合に向って声をあげる。
「百合さん。一体どういうことですか。いきなり彼女を連れ去るなんて。」
 
どうやら、絳攸は秀麗に対してではなく百合に対して怒っているらしい。
対する百合は、全く悪びれもせず答える。
「だって、いつまでたっても紹介してくれないんだもの。
それに、秀麗ちゃんが来なきゃ、絳攸は来てくれなかったでしょ。」
「…、それは…、俺はこのような場には相応しくありませんから。」
 
絳攸の瞳に影が差す。
秀麗はその理由が分からずに困惑した。
そこに、百合の会社の客だというロマンスグレーの男性が声をかけた。
「百合さん、今日はいろいろとお連れが多いようですね。紹介していただけないのですか?」
「これは申し訳ありません。
息子の絳攸です。
もっと早くにご紹介したかったのですけれど、恥ずかしがってなかなかこのような場には来てくれないのです。
今日は恋人を人質にして、ようやく連れ出しましたのよ。」
「そうでしたか。いや、しかし彼女が心配だというのはわかりますな。
今やこの会場の一番の花ですから。
しかし、そろそろ彼のもとへ返して差し上げた方が良さそうです。
絳攸君、私は百合さんの会社に大変にお世話になっていてね。まぁ、これからよろしく頼むよ。」
 
そう言うとその男性は別の輪に去って行った。
その背中を見送った後向き直った百合は、絳攸に言う。
「まぁ、今日はここにきてくれただけで褒めてあげる。
秀麗ちゃんも疲れてきていると思うから、上の部屋で休ませてあげたいの。
絳攸、ついていってくれるかしら?」
 
そう言われた絳攸は、まだ何か言いたげな顔をしていたが、
結局「わかりました。」というと秀麗の手を引いて歩き始めた。
 
 

 

            6-6へ続く

 
 
 
 
 
 
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