唇を合わせるだけだった口付けが、次第に深くなっていく。
付き合い始めたころは触れ合うだけでも恥ずかしそうにして、
耳まで真っ赤になっていた秀麗だったが、
時を経るにつれ、徐々にではあるが、口付けに心地よさを感じるようになってきたようだ。
合わせた唇の隙間から、そっと歯列を割って舌を差し入れると、応える様に舌をからめてくる。
しばし互いを味わった後、絳攸はそっと唇を離した。
ところが、秀麗は絳攸の両袖を掴んだ手にぎゅっと力を込めながら、絳攸の目を見つめて言った。
「…絳攸さま、もっとキスしたい、です。」
恋人の意外な発言に絳攸もしばし呆気にとられ、沈黙が流れる。
それを拒絶と受け取ったのか、秀麗は悲しそうに言い募る。
「絳攸さま、だめ、ですか?」
見上げてくる秀麗と視線が交わった瞬間に、絳攸は心臓を掴まれたようになる。
ようやく吐き出した言葉。
「だめ、ではないが、だめだ。」
自分でも支離滅裂だとわかっている。
だが秀麗は自分の言葉の意味を理解していない。絶対に。
それに気づかぬふりをして、自分が欲望のままに行動することは容易い。
けれど、その結果秀麗を傷つけることは絶対にしたくない。
だから、自分がブレーキをかけねば。
そんな絳攸の意図に全く気付かぬまま、秀麗は相変わらず、潤んだ上目づかいで見上げてきている。
その目に宿った不安は取り去ってやりたい、そのためにはと
心の中に生まれた気持ちを断ち切るように、絳攸は言った。
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