桜の時 2-2
 
 
 

「秀麗。とりあえずそこに正座しろ。」

「?絳攸さま?」

全くわけがわからないという表情のまま、それでも秀麗は絳攸の言に従った。

「秀麗。いい機会だから、言っておく。よく聞け。」

「……、はい。」

秀麗はきょとんとしたまま、それでもなんとか返事は返してきた。

「以前から思っていたことだが、秀麗は少し警戒心が足りなさすぎる。」

「警戒心、ですか?」

「そうだ。特に男の前ではそんなに無防備でいてはいけない。男はみんなオオカミだ。」

「オオカミ?」

「そうだ。あまりに無防備な姿をさらされると、それだけで男は誘われていると誤解するものなんだ。」

「絳攸さまもですか?」

だからそういうところが無防備だと言っているのに。

絳攸は切なくなりながら、頷く。

 

 

 

「そうだ。俺だって男だ。

好きな女を前にして、なんの欲望も湧かないわけじゃない。

だから頼む。

もう少しだけでいいから、警戒心を持ってくれ。

このままだと、俺もいつ自分の欲望に負けるかわからん。

それで秀麗を傷つけることだけはしたくないんだ。」

 

 

大切に思っているからこそ、ありのままの言葉を伝える。

しばらくは、秀麗と距離を置くことになるかもしれないが、

目先のことよりも、ずっと秀麗といられる方法を選びたい。

絳攸がそんな事を考えていると、漸く、秀麗が口を開いた。

 

「それでも、もっと、キスしたいです。」

秀麗の言葉に絳攸は頭を抱えた。

「秀麗、俺の言ったことの意味、わかっているか?

そんな事を言ったら、どうなっても文句は言えないと、そう言っているんだぞ。」

諭すように言っても、秀麗は首を横に振る。

「絳攸さま。私は、どうなっても文句は言わないと言っているのです。」

彼女の魅力である、意思の強い目。

その目で見つめられ、絳攸は溜息とともに言葉を吐き出す。

「自分の言っている意味、わかっているな?」

秀麗は恥ずかしそうにこくんと頷いた。

「怖くなったら、言えよ。」

またこくんと頷く。

その動作も表情も何もかも愛しくて、自分の箍を外してしまいたくなる。

けれど、焦ってはいけない。

 

       2-3へ続く

 
 
 小鈴に感想を送る
 
 
   小説TOPへ
 
 
案内板へ