「秀麗。とりあえずそこに正座しろ。」
「?絳攸さま?」
全くわけがわからないという表情のまま、それでも秀麗は絳攸の言に従った。
「秀麗。いい機会だから、言っておく。よく聞け。」
「……、はい。」
秀麗はきょとんとしたまま、それでもなんとか返事は返してきた。
「以前から思っていたことだが、秀麗は少し警戒心が足りなさすぎる。」
「警戒心、ですか?」
「そうだ。特に男の前ではそんなに無防備でいてはいけない。男はみんなオオカミだ。」
「オオカミ?」
「そうだ。あまりに無防備な姿をさらされると、それだけで男は誘われていると誤解するものなんだ。」
「絳攸さまもですか?」
だからそういうところが無防備だと言っているのに。
絳攸は切なくなりながら、頷く。
「そうだ。俺だって男だ。
好きな女を前にして、なんの欲望も湧かないわけじゃない。
だから頼む。
もう少しだけでいいから、警戒心を持ってくれ。
このままだと、俺もいつ自分の欲望に負けるかわからん。
それで秀麗を傷つけることだけはしたくないんだ。」
大切に思っているからこそ、ありのままの言葉を伝える。
しばらくは、秀麗と距離を置くことになるかもしれないが、
目先のことよりも、ずっと秀麗といられる方法を選びたい。
絳攸がそんな事を考えていると、漸く、秀麗が口を開いた。
「それでも、もっと、キスしたいです。」
秀麗の言葉に絳攸は頭を抱えた。
「秀麗、俺の言ったことの意味、わかっているか?
そんな事を言ったら、どうなっても文句は言えないと、そう言っているんだぞ。」
諭すように言っても、秀麗は首を横に振る。
「絳攸さま。私は、どうなっても文句は言わないと言っているのです。」
彼女の魅力である、意思の強い目。
その目で見つめられ、絳攸は溜息とともに言葉を吐き出す。
「自分の言っている意味、わかっているな?」
秀麗は恥ずかしそうにこくんと頷いた。
「怖くなったら、言えよ。」
またこくんと頷く。
その動作も表情も何もかも愛しくて、自分の箍を外してしまいたくなる。
けれど、焦ってはいけない。
2-3へ続く