部屋に戻った秀麗は目の前の風景に目を疑った。
浴衣に着替えた絳攸、
は別に不思議でもなんでもないのだが、
その絳攸が敷かれた二組の布団を前にして正座したまま固まっているのであった。
ためしに呼びかけてみる。
「絳攸さま?」
「………」
もう少し近づき、耳元で読んでみる。
「絳攸さま?」
絳攸は漸く気付いて、一拍遅れて返事をする。
「しゅしゅしゅしゅーれい……あ、あがったのか?」
「はい、いいお湯でした。ところでそんなところでどうなさったのですか?」
「ぃぃぃぃぃいや。な、なんでもない。」
まさかぴったりとくっついた布団をこのままにするべきか離しておくべきか
悩んでいる間に秀麗が戻ってきてしまったとは言えない。
すると秀麗は絳攸に向かい合うようにして畳の上に座った。
浴衣に着替えた秀麗は、ほのかに肌が桃色に染まりそれがひどくなまめかしく感じる。
思わず目をそらそうとする絳攸の肩に手をあてて、秀麗が顔を近づけてくる。
「絳攸さま、そんなに緊張なさらないでください。」
「き、緊張なんて、し、していないぞ。」
「嘘です。この間私が言った事を、気にしていらっしゃるのでしょう?
絳攸さまがそういうおつもりがないのに、無理になんて、
そんなつもりないですから、安心してください。」
言いながら秀麗の頬が赤く染まったのは、湯あがりのせいだけではないはず。
自分の態度で迷いを察し、秀麗の口からこのような事を言わせることになるとは。
絳攸は両の拳をぎゅっと握りしめると、秀麗の目を真っ直ぐ見て言った。
「秀麗。心配させてすまなかった。
秀麗がどういうつもりかわからなくて、どうしたらいいのかわからなくなってしまったんだ。
前にも言った通り、俺だって男だ。
二人っきりで一晩を過ごすのだから、期待していないと言えば嘘になる。
だけど、秀麗がそのつもりがないのなら、誓って何もしない。」
絳攸の言葉に、秀麗は絳攸の胸へと体を預けてきた。
そして囁くように告げられた言葉。
「私も、期待、していました。」
その言葉に秀麗の細い体を抱きしめながら、絳攸は再度秀麗に問う。
「秀麗。あとで嫌といっても、やめてやれないぞ。本当にいいのか?」
「…、はい。絳攸さまさえよければ、私を、絳攸さまのものにしてください。」