第四話
室に到着すると絳攸は、
明日の朝までは室には近付かぬように、
朝餉は室に二人分届けるようにと告げ家人を下がらせた。
腕に抱いた秀麗をそっと寝台に下ろす。
使い慣れた自分の寝台。
しかしそこに秀麗が居るだけで、全く別のものに感じるから不思議だ。
秀麗は媚薬の効果か、相変わらずとろんとした目で絳攸を見上げてくる。
「秀麗。これより先、嫌といってもやめてやれない。本当に良いんだな。」
最後に確認と秀麗に聞くと、艶やかな笑みを浮かべて返される。
「絳攸さまこそ、途中でお逃げになる事はできませんよ。」
そう言われて、返事の代わりに噛み付くように唇を貪る。
歯列を割り、舌を絡ませる。
最初は戸惑った様子を見せた秀麗も、すぐに応えるようになる。
そうして呼吸さえも奪うほどの深い口付けを交わしながら、互いの衣を解いていく。
脱がせた官服は床に投げ捨て、
下着の腰紐も引きちぎるようにして解くと、
邪魔だと言わんばかりに袷を寛げる。
夜目にも、白い肌が桃色に上気しているのがわかる。
その白い肌に舌を這わせると、今まで聴いたことのないような甘い声が秀麗の口から漏れる。
以前に侍童として戸部で働いていたときには、全く正体のばれる心配などしなかった。
しかし、時が経ち、しかもこうして衣に被われない姿を見れば、
秀麗の肢体は確かに女性のものだった。
緩やかながらも確かに存在する胸の双丘、
そしてそこから曲線を描いた先の腰は、折れそうなほど、細い。
胸の膨らみに手を伸ばすと、やわやわと心地よく手になじむ。
そして何よりも自分の手の動きに合わせて秀麗が甘い声をあげる事が、
絳攸をより一層興奮させる。
絳攸は夢中になって秀麗の白く柔らかい肢体を貪った。
胸の先の尖りを甘噛みし、もう一方を抓りあげると、秀麗は高く鳴く。
その声が聞きたくて、何度も繰り返す。
そうして空いているほうの手は、
そっと白く形の良い太腿を撫で上げてその張りのある感触を楽しむ。
最初は、膝近く。
次いで、徐々に上へと手を伸ばす。
秀麗も焦れたように膝をすり合わせるが、
その両足の間に体を滑り込ませて、その動きを封じてしまう。
ふと目をやると、秀麗の両足の間からは、
絳攸を待ちかねるように欲望が滴り落ちている。
いくら媚薬を服したとはいえ、
その反応の良さが、
以前に秀麗にこの行為を教えた男の存在を感じさせて、癇に障った。
静蘭か、陸清雅か、はたまた榛蘇芳か。

第五話
その思いを振り切るように、絳攸は更に行為に没頭する。
秀麗の細い腰を引き寄せると、
両足をつかんで高く上げさせ、更に腰の下に枕を挟みこむ。
流石にその姿勢は羞恥に耐えられないらしく、
秀麗は抗議の声を上げるが、聞き入れてなどやるつもりもない。
「よく、見ていろ。お前が、望んだ事だ。」
そういうと、先ほどから蜜を溢れさせている部分へ、
ぴちゃりと舌を這わせる。
秀麗に見せ付けるように、ゆっくりと。
秀麗はいやいやというように首を横に振りながら、
しかし、甘い声が途切れる事はない。
桃色の襞の、その間までも全て嘗め尽くしてしまおうと、舌を這わせる。
そうしているうちに、次第にぷっくりと膨らんできた部分へと舌を伸ばした。
鞘を舌で開いて、雌芯を吸い上げる。
「いや、そこ、な、にっ…」
一際高い声で鳴くと同時に、秀麗の体はびくびくと痙攣した。
その痙攣の収まるのすら待ってやらずして、
蜜壺の中へつぷりと指を差し入れた。
後から後から溢れ出る甘い蜜で、
難なく受け入れられた指を、間接を曲げて引っ掻く様にして動かす。
「秀麗、見ろ。さっき俺が綺麗にしてやったのに、またこんなに、溢れている。」
そう言って指で掬って見せると、恥ずかしがって、首を横に振る。
薬のせいか、はたまた行為のせいか、
秀麗の思考能力は、もう殆ど残されていないようで、
言葉らしい言葉は出てこない。
けれど、彼女の意思とは関係なく、新たな蜜が溢れ出す。
自分の心にこんなに嗜虐的な部分があるとは思っても見なかった。
そう思うほどに、秀麗は艶やかに反応を示す。
そしてその姿を見れば見るほど、心の半分が冷え切っていくのを感じた。
誰に、こんな事を教えられた?
誰に、こんな姿を見せた?
顔も名前もわからぬその男に、醜い嫉妬をしている自分が居る。
「秀麗、楽しみは、これからだ。」
そういうと絳攸は秀麗の華の部分から指を引き抜き、
代わりに怒張した自身を一気にねじ込む。
「ぁあっ!」
声にならない悲鳴のようなものが、秀麗の口から漏れる。
その手のひらも、敷布を強く握り締めている。
そうして初めて、違和感に気付く。
腐れ縁の常春と違って、絳攸とて経験が豊富なわけではないけれど、
それでもそうと判るほど、秀麗のなかは、狭かった。
それに先ほどの反応。
「…秀麗、初めて、なの、か?」
「…、は、い。」
力なく頷くのが精一杯の秀麗を見ながら、
なんという事をしてしまったのだろうと思う。
居もしない相手に勝手に嫉妬心を燃やし、
そして、彼女を乱暴に扱った。
彼女から誘ったのだと言い訳し、欲望のままに弄んだ。
もう自分には、彼女を愛しているという資格すら残されていない。
こうなるまでそうと気付かなかった自分自身の愚かさに反吐が出そうだった。
第六話
とにかく、今は秀麗を楽にしてやろうと、そっと自身を引き抜こうとする。
けれど、それを止めたのは、秀麗だった。
「途中でお逃げになる事はできぬと、申し上げたはずです。」
「しかし…、秀麗。」
「お願いします。続けてください。」
「だが…。」
「一夜だけで良いのです。夢を、見せてください。」
「夢?」
「はい、ずっと、絳攸さまに、触れたかった…。だから、お願いします。」
「…辛かったらすぐに言え。」
そういうと絳攸はゆっくりと抽送を開始した。
「秀麗、痛くないか?」
「だいじょ、ぶ、です。」
その健気な言葉が、今一度絳攸の心に火をつける。
自分はこんなにも愛しい人に、触れる事を許された。
そう思いながら、その白くすべらかな肌に、唇を落としていく。
ずっと触れたかったといった彼女の真意はわからぬが、
自分のほうこそ、夢を見せてもらっている。
ならば、せめてこの時間を大切にしたい。
そう思いながらゆるゆると腰を使う。
するとある一点で、秀麗の声が一際高くなることに気付いた。
「秀麗、ここが、いいのか?」
純粋に確かめたくて聞いたのに、
その問い自体が秀麗の羞恥心を煽ったのか、
一瞬締め付けが一層きつくなる。
けれど、再びその場を穿って秀麗の反応を見れば、
それが先ほどの問いに対して肯定の返事と見て取れる。
そうとわかると、その一点を集中的に攻め立てる。
室内にはただ、淫靡な水音と、そして愛しい人の鳴き声。
夢中になった絳攸が白濁した欲望を放ったのと、
秀麗が意識を手放したのは同時だった。
絳攸は乱れた呼吸を整えながら、そっと秀麗の乱れた髪に触れる。
絳攸と同様に秀麗も汗をかいて、
そのせいで張り付いた髪が嫌に艶やかに見えた。
その長い髪の一房にそっと口付けを。
そうしながら、髪の一本までが愛おしいと感じることに、
そして、それに今まで気づかなかった事に溜息が出る。
そして、秀麗の言葉の意味が気になりだした。
“ずっと、触れたかった”、確かにそう言った。
その言葉は、恋情を自覚した絳攸には甘く心地よい。
同じ思いを抱いてくれているからこそ、触れたかったのではないかと。
けれど、“一夜の夢”とも言った。
そのことが絳攸の胸を締め付ける。
秀麗の目には自分はどう映っているのだろう?
愛がなくとも体をつなげるような、そんな男と思われているのだろうか?
そこまで考えて、絳攸は軽く頭を振った。
考えても仕方ない。
確かな事は、自分が秀麗を愛しているという事だけ。
あとは、秀麗に確かめるしかない。
今はとりあえず、眠ろう。
そう思った絳攸は、秀麗の体を拭いてやる。
秀麗が受け止めきれずに零れ出た自分の欲望の残滓に、
赤いものが混じっている。
酷い事をしてしまったという後悔と、
この世で秀麗を抱いた男は自分しかいないという優越感とが
ない交ぜになって、再び襲ってくる。
それを追い払うように大きく息を吐き、掛布を多めにかけて、
秀麗の体に腕を回し、絳攸も眠りに落ちたのだった。

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