BLUE BIRD
※例によって例の如く未来捏造・こどもちゃん出現
李姫・楸珠・静十夫婦設定
結婚しても秀麗は官吏を続けています。
絳攸も楸瑛も何事もなかったかのように相当の職についています。
 
オリジナルキャラクター
柏鶯(はくよう) 5歳 楸瑛と珠翠の娘
優楓(ゆうか)  6歳 絳攸と秀麗の娘 静蘭になついている
泉俊(せんしゅん) 5歳 絳攸と秀麗の息子 楸瑛になついている
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
BLUE BIRD
 
とある休日。
 
貴陽市街の市のにぎわいの中、ひときわ目をひく二組の男女の姿があった。
まず目立つのは美しい顔(かんばせ)に柔らかな物腰の年齢不詳の美青年。
そして、左の眼下に特徴的な傷、
しかしその傷のイメージとは対照的な人懐こいイメージの青年。
すれ違う若い女性も次々に振り向かせる美丈夫二人組。
 
その二人をつき従える、二人の愛らしい令嬢。
 
一方は黒く真っ直ぐな髪に黒い瞳、もう一方はうすい茶色のゆるい癖の髪。
何(いず)れも、彼女らの母親の特徴をよく受け継いだものだ。
連れの男性と釣り合う美女間違いなしだ。
 
あと10年たてばの話だが。
 
「そんで、ちっさい姫さんたちは、将来は何になりたいんだ?
おれの嫁さんっていうなら、先着一名予約受付してやるぜ。」
 
「……、優楓さま、柏鶯さま、
すぐにその馬鹿からお離れください。
馬鹿が移ったら大変です。」
 
そう言いながら静蘭は、
右手に優楓の、左手に柏鶯の手を取り燕青と距離をとらせた。
 
大切なお嬢様のお嬢様なら、優楓は静蘭にとって大切なお嬢様だ。
柏鶯も静蘭から見れば、愛する妻の兄であるお財布一号の娘。
つまりは義理の姪。
静蘭にとって守護すべき対象だ。
相手が燕青ならば遠慮は無用。
 
「ばーか静蘭。
本当にいい男っていうのは、早く唾つけとかないと持ってかれるってことを
ちっさい姫さん達に教えといてやんないといけねーだろ?」
 
余裕の表情の燕青に、小さな姫君たちから次々と抗議の声が上がる。
「確かにそうね。うちの父さまも、静蘭も結婚しているけど、燕青は未だに独身だもんね。」
「それ以前に、そのちっさい姫様って呼び方、どうにかなりませんの?
私(わたくし)のことを言っているのか、優楓さまのことを言っているのかわかりませんし、
淑女に対して失礼ですわ。」
 
突如出来上がった一対三の構図に、若干の不利さを感じつつも、
何とか順番に返事をしていく。
いい加減なくせに変なところで律義なのが燕青という男だ。
 
「優楓姫、俺は彩雲国最後の特上物件なんだよ。
優楓姫の母さまだって、俺のこと褒めてくれたんだからな。
それから、柏鶯姫、悪いねぇ。
ついつい姫さん達には姫さんって言っちまうのよ。
だけど俺がただ姫さんって呼ぶのは優楓姫の母さまだけだからさ。
姫さんより小さいからちっさい姫さんよ。」
 
「それにしても、どうして燕青は結婚できないのかしらね。
父さまと静蘭には劣るけどなかなかいい男なのにね。」
 
優楓の褒めている様のか貶している様のか微妙な言葉に、
どうしたものかと燕青が思案している間にも
柏鶯の厳しい言葉が飛んでくる。
 
「乙女心を解さないからですわ。」
「優楓姫も柏鶯姫もキビシーねぇ。サスガ、姫さんと珠翠さんの娘だねぇ。」
 
がしがしと遠慮なく頭を撫でる燕青を避けるように身をよじりながら、
柏鶯が不機嫌そうに言う。
 
「……、そんな暢気にしているから、いつまでたっても結婚できないのですわ。
まぁ、私が大人になってもまだ独身のままだったら、
私が奥さんになって差し上げないこともありませんから、ご安心なさいませ。」
 
「まぁまぁ、柏鶯さまったら、お優しいんですのね。私は、燕青よりは、静蘭が好きよ。」
そう言って静蘭に手を伸ばす優楓を、静蘭は笑顔で抱きあげる。
静蘭の腕の中で、柏鶯を見下ろしながら、優楓は切なげに言う。
 
「ほら、静蘭って完璧な王子様みたいでしょう。
何でもう結婚しているのかしら。初恋は実らないって本当なのね。」
 
「優楓さま、初恋は実らないというよりは、
初恋ではいろいろと夢中になって見えないことが多いから
失敗することが多いということだけですわ。
まぁ、うちの父上みたいに初恋だけじゃなく
何度も失敗するかたもいらっしゃるようですけど。」
 
「柏鶯姫はお父上には厳しいねぇ。でも、俺は知ってるぜ、実った初恋ってやつをさ。」
 
「まぁ、そうなの?」
「どんな方なの、燕青教えて?」
小さな姫君たちは、燕青の言葉に夢中だ。
 
静蘭は少しだけ視線を泳がせ、そしてすぐにいつもの温かい眼差しを取り戻した。
 
「それはな、優楓姫の父君と母君だ。」
「まぁ、うちの父さまと母さま?」
「確かに、優楓さまのお父様とお母様は素敵ね。」
うちの父上と母上と違っていつも仲良しだしと柏鶯はつぶやく。
 
「当然よ、父さまは素敵。でも静蘭も素敵よ。私は静蘭が世界で三番目に好き。」
「おや、優楓さま。私は三番目ですか。」
静蘭は満足とも不満とも取れない表情で問い返す。
「ええ、二番は父さまと母さまよ。」
「…それでは、一番はどなたですか?」
「静蘭の一番は、十三姫さまでしょ?」
 
幼くともさすが絳攸と秀麗の娘。その聡明さは幼い秀麗を彷彿とさせる。
「ええ、妻が私の一番ですよ。」
「悔しいけれど、やっぱり静蘭は素敵ね。殿方はやはりそうでなくてはね。」
「では、優楓さまの一番は見つかりそうですか?」
「まだよ。一番の候補だった静蘭に振られてしまったのですもの。
静蘭よりいい男って見つかるかしら?」
 
「なかなか難しいでしょうが、優楓お嬢様になら、見つかりますよ。」
「そうね。母さまもそう言っていたわ。
私も母さまみたいに官吏になりたいから、それを認めてくれる殿方じゃないとだめなの。
でも母さまは父さまを見つけたから、優楓の王子様もきっと見つかるって。」
 
「それにしても優楓姫の旦那さんになるオトコは大変だなぁ~。
普通は嫁さんの父親だけでも大変なのに、
あの黎深さまに静蘭まで相手にして嫁にもらう許しを得るんだろ。」
 
他人事だとおもしれーけどなと笑う燕青の袖を引くのは、柏鶯だ。
 
「あら燕青。うちの父上だってああ見えて実は一応強いのよ。
いざとなったら勝負してくれる覚悟はあるの?」
 
一生懸命に問うてくる柏鶯は常の大人びて取り澄ましているよりずっといい。
「おお、任せとけ。柏鶯姫のためなら、俺頑張っちゃうよ~。」
それを聞いた柏鶯は嬉しそうにほほ笑んだ。
しかし口では、
もしも燕青が結婚できないでいたらの話よ、もしものことなんだから!と
優楓に向かって強調している。
 
そんな二人に向かって静蘭は声をかける。
「優楓さま、柏鶯さま。
おしゃべりはそのくらいにして、そろそろ本来の目的を果たしませんと。」
 
「そうだったわね。殿方の好みは難しいから、燕青一緒に選んで頂戴!」
柏鶯が燕青の手を引くと、
「静蘭は私と一緒に選んでね。」
優楓もうれしそうに静蘭を見上げる。
「はい、優楓お嬢様にお願いされては逆らえませんから。」
そう返す静蘭の眼も嬉しそうだ。
 
 
 
 
帰り道、優楓は静蘭と、柏鶯は燕青と手をつなぎながらぶらぶらと歩いていた。
 
不意に優楓が口を開く。
「燕青、さっき私に将来は何になりたいかって聞いたわよね。」
「ん、なんだ優楓姫、教えてくれるのか?」
「私は将来、母さまみたいになりたいわ。
昼間は国の皆の幸せのために走り回って、夜は大好きな旦那さまと家族を守るのよ。
素敵な夢でしょう?」
 
「そーだな、すげぇいい夢だと思う。じゃあ柏鶯姫はなんかあるのか?」
 
急に話を振られた柏鶯は視線をわずかに泳がせた。
「……。私は、最高の奥様になりたいですわ。」
「最高の奥様、ですか?」
流石に静蘭にも意図が図りかねたようで、鸚鵡返しに聞き返す。
「ええ、皆の幸せのためにボロボロになるまで働く旦那さまを、
翌日の朝にはまた笑顔でお城に向かえるようにして差し上げる奥様です。
うちの父上も、どんなに厳しい訓練の後でも、
母上のお顔をみると元気になれるのですって。」
 
「おお、それはいい夢だな~。」
「夢ではありません。目標です。」
つんと顔をそらして言い放つ柏鶯の表情は、とても5歳とは思えないほど凛としている。
 
 
 
 
 
日も暮れかかった頃、漸く辿り着いた先は優楓の家。
つまりは絳攸と秀麗の家である。
あるじ夫妻のほかに柏鶯の父である楸瑛もいた。
優楓の弟である泉俊は午睡をしているようだ。
 
真っ先に出迎えたのは楸瑛だ。
「柏鶯、お帰り。楽しかったかい?悪い男に声をかけられたりしなかったかい?」
「……今かけられている所よ。」
そう言って柏鶯は冷たく楸瑛を突き放した。
 
珠翠がどういう教育をしているか目に見えるようだ。
 
「はーくよーう。たまには父上にも優しくしておくれー。」
かつては宮廷一の色男とうたわれた男も娘の前では形無しである。
楸瑛は絳攸に泣きつき、絳攸は寄るな常春と逃げ出した。
 
その姿を笑いながら秀麗が娘たちに声をかける。
 
「それで、今日は二人とも何のお買い物だったのかしら?
わたくしや、絳攸さま、楸瑛さまにも内緒だなんて。」
そう問われた優楓は、秀麗の耳元に何事か囁いた。
それを聞いた秀麗は少し驚き、ついで嬉しそうにした。
「まぁ、素敵な計画ね。」
「はい。でも、秀麗さまのご協力が必要なのです。うちの母上ではちょっと。」
柏鶯が申し訳なさそうにお願いしてくる姿に、秀麗は娘が二人に増えたように感じた。
「じゃあ、びしばししごくから、二人とも覚悟しておいてね。」
そう言いながらも秀麗の表情は本当にうれしそうだ。
 
それに気づいた絳攸が妻の傍へとやってくる。
「女人だけの内緒話か?ずいぶん嬉しそうだな。」
「ふふふ。そのうちに絳攸さまにもお分かりになりますわ。
でもそれまでは女同士の約束なんです。」
「俺は除けものか。」
少し悲しそうにする絳攸に優楓が声をかける。
「父さま、楽しみはあとに取っておく方が良いでしょう?」
愛らしい娘の笑みに、絳攸は思わず優楓を抱き上げる。
「そうか、楽しみなら、待っておくとしよう。」
「ふふ、優楓は聞き分けのいい父さまが大好きです。」
普段絳攸が優楓にするように、今日は優楓が絳攸の頭を撫でてくれた。
その小さな手を、本当に愛しいと思った絳攸であった。
 
 
太陽が完全に隠れ、変わって星ぼしが天空を飾る頃。
絳攸は寝台の上で本を繰りながら、秀麗を待っていた。
今日は優楓も泉俊も遊び疲れたのか、湯を使い夕餉を取るとすぐに眠ってしまった。
秀麗も食事の片づけは終わって今は湯を使いに行っている。
何度か項を繰った後、扉の開く音に顔をあげると、秀麗が入ってくるところだった。
寝台に寄ってくるその細い腰を捕まえ、自分の膝の上に座らせる。
そうして、そっと囁いた。
 
「秀麗、どこにも行くな。」
唐突な夫の言葉に、秀麗はわけがわからない。それでも、
「……、絳攸さま、どこにも行きませんよ。」
そう言って夫を抱きしめる。
しばし無言の抱擁が続いた。
そうして。
 
「絳攸さま、どうなさいましたの?」
秀麗の問いに漸く絳攸が話し始める。
「いや、優楓も泉俊もいずれは自分の人生を歩き始めるのだと思ってな。」
どうやら昼間に楸瑛から聞いた泉俊の話や、
優楓に買い物の内容を秘密にされたことなどが気になっているらしい。
 
「絳攸さまは、わたくしと出会わないで、ずっと黎深さまと百合さまのお傍にいたかったですか?」
「いや。別々に住むようになったところで、あのお二人は俺の両親だ、それは変わらない。
それに、秀麗なしの生活など今さら想像したくもないな。」
 
「あの子たちも同じですわ。でも絳攸さま。少し早すぎます。
少なくともあと10年は傍にいてくれますわ。」
「10年か、なんだかあっという間に過ぎてしまいそうだ。」
「その後はわたくしと二人で、のんびり暮らしましょう。二人ではご不満ですか?」
わざと拗ねたような口調の秀麗に、ついに絳攸も笑ってしまった。
「二人か。それはそれでちょっと待ち遠しいような気もするな。」
そう言いながら二人は寝台に倒れこむ。絳攸の腕の中で秀麗は再度呟いた。
「絳攸さま、わたくしはずっと、絳攸さまのお傍におります。」
その言葉の最後は絳攸によって唇をふさがれたため、消えていく。
代わりに秀麗からも口づけを。そうしてまた、二人の夜は更けていった。
 
 
 
あとがき、という名の言い訳
 
willで楸瑛が泉俊と遊んでいたころ、
そのほかの人々が何をしていたか、娘達編です。
 
優楓姫は、Rosaceaeではおなじみですが、今回楸珠夫妻の愛娘にご登場いただきました。
 
柏鶯姫です。楸(ひさぎ)=アカメガシワ、鶯=みどりいろという単純なネーミングですいません。
藍家の姫ですが、手元で育てていいのですかね?
まあ勘当された四男だしいいかということで、姫登場。
 
まさか楸瑛も娘を燕青に取られるとは思ってもいまい。
どこまでも哀れな男、藍楸瑛。ダイスキです。
珠翠のツンツンぶりと、楸瑛のしぶとさを受け継いだ柏鶯。
ロックオンされた燕青はそれはそれで大変かも。
あと静蘭が大好きな嫁ほっぽって若い娘とデートしていますが、
きっと「わたしちょっと馬と二人きりになりたいの♪」とか言って振られたのですよ。
 
タイトルについて
BLUE BIRD という曲はたくさんありますが、小鈴の中ではayuのPVのイメージです。
楽しい未来、という感じの。
 
willもそうですが、このちびっこシリーズには共通したテーマがあります。
それは、秀麗の描いた未来は浸透したかどうかです。
 
秀麗の官吏としての夢は、自分の立身出世ではなくて、
幸せをつかむチャンスが平等に与えられることですよね。
それって一朝一夕のことではないと思うのですが、
李姫夫妻なら、ちびっこにも繰り返し夢を語っていると思うのです。
 
茶州に学校を作って人材を育てようとしたように、
身近な人々も自然な形で育てていくのではないかと。
100年先を見据えて次代の礎を着々と築いていくのでしょう。
 
それにしても絳攸。親ばかというか心配症すぎ。(←すべて小鈴による捏造だから!)
 
2010年5月8日 連載により分割していたページを統一。誤字の修正。内容変更は一切なし。 
 
 
 

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