※例によって例の如く未来捏造・こどもちゃん出現
李姫夫婦設定
結婚しても秀麗は官吏を続けています。
絳攸も楸瑛も何事もなかったかのように相当の職についています。
まったく出てきませんが、珠翠は楸瑛と結婚して子どももいるはずです。
オリジナルキャラクター
泉俊(せんしゅん):絳攸と秀麗の息子 楸瑛になついている
以上をご了解いただける方のみ下の本文にお進みください。
will~しょうぐんとぼく~
「ねぇしょうぐん。僕も大人になったら、らんしょうぐんのような強い男になりたいな。」
楸瑛の膝の上に座る少年は、
親友(相手からはただの腐れ縁と言われ続けているけれど)の愛息子、泉俊である。
その頭をなでながら、楸瑛は答える。
「嬉しいことを言ってくれるね、泉俊。泉俊は将来、羽林軍に入ってくれるのかな?」
絳攸と秀麗の子供ではあるが、自身もわが子同様に泉俊を可愛がっている楸瑛としてみれば、
自分のようになりたいと言ってくれることは最高の褒め言葉だ。
ところが、楸瑛の言葉に、泉俊は少し困ったように答えた。
「じつは、文官か武官か迷っています。」
てっきりはいと答えてくれると思っていただけに、楸瑛は驚いた。
しかし、膝の上の泉俊はそんな楸瑛の様子などお構いなしに、話を続ける。
「かあさまも、強くなるのには、賛成なんだって。
でも、強いって言うのは、喧嘩だけじゃだめで、勉学も必要だっていうんだけど、ぼくは良くわからないんです。」
泉俊の言葉に、楸瑛の心に懐かしくそして切ない過去が蘇る。
秀麗が国試及第一年目にして茶州州牧という大任についていた頃。
崔里関塞まで八日間駆けに駆け、これから自らの対峙する得体の知れぬものを思い、心身ともに心底疲れ切っていたはずだ。
それでも、ある人の姿を見つけ、擦り傷さえも気にかけず、まっすぐ走って行った秀麗の後姿。
禁軍といえども州境は超えさせぬ。
力ではなく知と和で解決をする、そう決めて走って行った秀麗の先で、余裕の笑みを浮かべ彼女を受け止めた燕青。
あの時、禁軍という国内最高の軍を、ひとつの傷さえもつけずにすべて守ったのは、彼女の決断だった。
守る側だと思っていた自分が守られるとは。
そうして守られてしまうと、何もできない自分にただ、歯がゆくて虚しいだけだった。
ただ、秀麗の描く未来を見たいと切に願った。
時を経て秀麗の夫となった絳攸もまた、
妻と同じ未来を見つめ、妻同様に文官としての力量を遺憾なく発揮している。
病めるもの、飢えるものを減らし、望むものには勉学の機会を与える。
ゆっくりと、だが確実に、この国を豊かにしていく力。
そんな力を知っている秀麗が近くにいるのだ。
泉俊も当然、幼いなりに両親のそばで見聞きすることもあるのだろう。
そうして育った少年は、いずれこの国の礎となっていくに違いない。
(そうなったら、武官の仕事は無くなってしまうな)楸瑛は自嘲する。
黙ってしまった楸瑛をどう思ったのか、泉俊は立ち上がって隣の室に消えていき、ほどなくして蜜柑を両手にひとつずつ持って帰っていた。
そして再び楸瑛の膝の上に座り、小さい手で皮をむく。
時間を掛けて漸く取り出した小房を、楸瑛の前に差し出した。
「しょうぐん、どうぞ。」
小さな手が差し出した蜜柑は、甘く少し酸っぱくて瑞々しかった。
自分と楸瑛の口にかわるがわる蜜柑を放り込みながら、泉俊が話し出す。
「このみかんはね、れいおじいさまが特別に作らせたものなんだそうです。だから特別に甘いんです。
かあさまは、みかんだけじゃなくて、いろいろな果物やお野菜を特別にしたいって言ってた。
雨が降る年も、降らない年も、暑い年も、寒い年も、どんな天気にも負けない作物を作るんだって。
皆に食べ物がいきわたって、おなかがすいて苦しい人がいないようにしたいんだって。
それってお勉強したら、ぼくも役に立てるかな?
強くなって悪い奴から守ってあげるのと、どっちが喜ぶかな?しょうぐんはどう思う?」
幼い泉俊の言葉に楸瑛は息をのむ。
流石、絳攸と秀麗の息子というべきか。
自分がそのことに気付いたのは、彼よりも二十年も後だったということが恥ずかしくさえ思える。
「泉俊。きみはまだ、自分の道を決めてしまうには早過ぎるよ。
勉強もしながら、剣の稽古もして、両方が得意になれば、秀麗殿は一番喜ぶんじゃないかな。」
武官としての矜持もあって、そう答える。
「そっか。えんせーみたいになればいいんだね。」
泉俊は答えが出たと喜んでいる。
その頭をなでながら、楸瑛は複雑な気分になっていた。
官吏としての才能はあるが、
勉学が得意かと言われれば否としか言いようのない鬚男に負けるとは。
ぜひ泉俊を羽林軍へ引き入れようと心に誓った楸瑛であった。
日も暮れたころ、秀麗と絳攸がそろって姿を現した。
泉俊は遊び疲れて眠ってしまっている。
「楸瑛さま、留守番をおまかせして申し訳ありませんでした。」
「いや、いいんだよ。珠翠どのもいなくて、ちょうど暇だったから。それよりも久しぶりの夫婦水入らずは楽しめたかな?」
問うた瞬間に見つめあい甘い視線を交わしあう絳攸と秀麗に、楸瑛は聞いたことを少しだけ後悔した。
出会ったころは、この二人にあてられるようになる等とは思いもしなかった。
親友の変化が少しだけ悔しい。
「そういえば絳攸、泉俊の夢を聞いたことがあるかい?」
お茶を入れると秀麗が去った後、楸瑛は仕返しのつもりでそう問うた。
「いや、聞いたことがないな。幸せに過ごしてくれれば何でもいいけどな。」
答える絳攸は父親の顔だ。
「そうか。俺は今日、教えてもらったぞ。」
それを聞いて絳攸は、親より先に聞くとは何事だと気色ばむ。
「楸瑛、教えろ。」
真剣な顔で聞いてくる絳攸が可笑しくて。
「教えることはできないよ。男同士の秘密だからね。」
そう答えておいた。絳攸は諦めきれないように教えろ、教えろと繰り返している。
そこに、秀麗がお茶を持って帰ってきた。
「まぁ、何のお話ですか?」
話が盛り上がっていると思ったのか、興味深そうに聞いてくる。
「泉俊がこの常春に将来のことを話したらしいのだが、それを俺には言えんというのだ。」
絳攸は秀麗に訴えることで、間接的に楸瑛に圧力をかける作戦に出たらしい。
しかし、それを聞いても、秀麗は動じることなく笑って答えた。
「良いではありませんか。きっと立派になりますわ。だって、絳攸さまの息子ですもの。」
そう言ってそっと絳攸の右手に自分の左手を重ねている。
その姿を見た楸瑛は、結局秀麗には敵わないと苦笑いをするしかなかった。
あとがき、という名の言い訳
JEWELで寝ているだけだった泉俊ですが、ちょっくら大きくなりまして、たぶん5歳とかそんなものかと。
小鈴の頭の中では、周辺事情はこのようになっています。
絳攸さんは秀麗ちゃんをお嫁に貰い、優楓姫と泉俊の二児のパパ。本当はもう一人ぐらい欲しいけど、奥さまは仕事に邁進中。
楸瑛さんはなんとかまるめこんで珠翠どのを嫁に貰い、一女のパパ。この娘っ子は優楓と仲良し。珠翠どのは特例でいまだに女官としてお仕事中。劉輝につき合わされて刺繍は微妙に上達。
willの日は、珠翠はお仕事で、藍家の娘と優楓は静蘭と燕青とお出かけしています。
娘に振られた楸瑛は寂しく絳攸邸にやってきますが、絳攸と秀麗のいちゃいちゃっぷりに耐えきれず、二人を外デートに行かせて泉俊とお留守番。
こうして書いてみるとなんてかわいそうなんだ楸瑛!(←全て小鈴のせい)
それぞれのネタを、きちんとお話にしていきたいなと思っているのですが、実現できるのはいつになることやら。