「……みせて」
「え?」
「おれも、みるの。みせて」
「いえ、お見せするほどのものでは」
「おれは、みちゃ、らめなのか?」
仔犬の様な目で見上げながら、百獣の王の様に秀麗を追い詰める。
「ダメじゃないですけど。
みたらまた、がっかりして明日の仕事の事、憂鬱になっても知りませんよ?」
「がっかりはしないらろ。はやくみせて。みたい」
「見せたらお水飲んでそれから寝るんですよ?約束してくれますか?」
「うん。やくそくら」
「手、離してください。ファスナー、下ろせません」
そう言って、もう片方の手で彼の手をゆっくりとほどく。
妙に心臓が高鳴るのは、このおかしな状況のせいだ。
他人に見せるために服を脱ぐなんて、ありえない。
ゆっくりとパーカーのファスナーを下ろすと、
白いビキニも、水着にすら覆われていない腹部も全部絳攸の眼前に晒されてしまう。
恥ずかしくて、頬が上気するのが分かる。
「……きれいら」
絳攸はそういうと突然秀麗を抱き寄せて、
胸を覆う水着のすぐ下のあたりに唇を寄せる。
突然の出来事に秀麗の思考は停止した。
絳攸はしばし秀麗の肌を味わった後に唇を離す。そして満足げに言った。
「でもこれで、みせられない。おれだけのら」
その言葉で我に返った秀麗は、急いで寝室の姿見へと向かう。
そこには確かに、水着を着られない理由があった。
赤いひとひらの花びら。
頭が真っ青になる。
明日の仕事はどうしたら良いのだ?
そこに、スリッパをぱたぱたと言わせながら、絳攸が入ってきた。
「しゅーれい?ひとりにしちゃ、いやだ」
そういって今度は背中から抱きしめられる。
「ちょっと絳攸さん、こんなことして、明日の仕事どうするんですか?」
「うん?たぶんどーにかなるらろ」
全く話にならない。
相当酔っぱらっているらしい。
いつもはまじめな彼が、酔うとこんな風になるだなんて知らなかった。
もうこうなったら寝かせてしまうに限る。
そう思い、彼を引きずってベッドに連れていく。
「お水持ってきますから、それまでは寝ちゃだめですよ?」
そういうとベッドに腰掛けた絳攸はこくんと頷いた。
そしてグラスに水を汲み、今日は自分はソファで寝るしかないと思いながら、再び寝室に戻る。
絳攸は足をベッドの下に垂らしたままで、上半身は既に横になっていた。
「もう、お水飲んでからじゃないとだめだって……」
そう言いながら秀麗はグラスをサイドテーブルに置き、
一度起きてくれるようにと彼の肩を揺する。
「絳攸さん、寝るならちゃんとお布団掛けてください。ね、一度起きて……」
そのあと起きた突然の出来事に、秀麗は頭がついていかなかった。
気が付いたら、絳攸に抱きしめられて自分も横になっている。
そして頭の上からは、規則正しい寝息。
どうにか腕の中から抜け出そうと試みたけれど、眠っているはずなのに力強くて敵わない。
「もう、結局どういうことなの?」
口に出してみても、秀麗の言葉は室内に空しく響くだけ。
翌朝目が覚めた二人の間でどんな会話が交わされたかは、二人だけの秘密。