夢を、見ていた。
また、おいて行かれる夢。
暗闇の中で、待っても待っても、誰も迎えに来てくれない。
そのうち、誰を待っていたのかも忘れてしまった。
それでも、待つことをやめようとは、露ほども思わなかった。
涙など、とうに枯れ果てたはず。
それでも喉の奥から嗚咽が漏れる。
いかないで、このてをはなさないで。
そうして差し出した手を、思いもかけず握り返される。
「…さま、絳攸さま。」
呼びかけられて、覚醒する。
枕元で自分の手を握るその人の目には、少しの心配と、そして確かな愛情が宿っている。
込み上げた喜びに、思わず愛しい人の名を呼ぶ。
「秀麗。」
「はい、絳攸様。お側におります。」
欲していた、応え。暗闇から自分を救いあげてくれたその人には、自分の心が読めるのだろうか?
「うなされておいででした。お仕事がお忙しいのはわかりますが、少しは周りの方に甘えることをなさいませんと。
もう少しご自分を労わって下さいませ。」
自分を一番甘やかすその人が、そんな事など気付いていない様子で話す仕草が、たまらなく愛おしい。
ふと思いつき、目の前の可愛い人に告げる。
「そうだな、たまには、甘えるのもいいかもしれない。」
細い腰に手を回し、寝台の中へと絡めとる。
「ちょっ、ちょっと、絳攸様?」
驚いて何事かと問う唇を、自分のそれで塞ぐ。
全く、こんな行いは自分らしくない。だけど、いいだろう?君だけなんだから。
「秀麗が隣にいると、疲れがよく取れるんだ。だから、いいだろう?」
否と言わせるつもりもないが。
腕の中の恋人は、目を見開き、顔を真っ赤にしている。
そうしてその後、小さく頷いたのを確認し、絳攸は再び眠りについたのだった。