my medicine
~楸瑛と珠翠の場合~
どうしても欲しいものがある。
貴女は意地っ張りだから、簡単には私にくれないだろうけれど。
待つことは得意だから、諦めるなんてあり得ないけれど。
でも、それは私の一番欲しいものだから、そろそろ渡してもらうことにするよ。
その日、藍楸瑛が帰宅したのは、深夜だった。
何でこんな事になったのだろう?
夕方ごろに王の元から退出しようとしたところ、とある人々に捕まってしまい、酒に付き合わされたのだ。
そこには何故だか、某工部尚書やら、某大将軍たちやら、さらに不思議なことには、静蘭と秀麗までいて、何となく盛り上がってしまった。
秀麗が気を利かして途中で逃がしてくれなければ、朝まで付き合わされたに違いない。
情けないことに、唯一酔っていたのが楸瑛だった。面子が悪かったとはいえ、やはりなんとなく矜持が傷つけられた。
自宅に帰りつき、玄関で出迎える意外な人に気付いて、楸瑛の頬は思わずゆるむ。
「旦那さま。ずいぶんと楽しそうでいらっしゃいますわね。どちらの姫君の処でお酒を召されたのですか?」
珠翠の声に含まれた険の色。その本当の意味がわかったから、髪をほどきながら、楸瑛は慌てるでもなく答える。
「霄太師と宋太傅に捕まったのですよ。ご心配なさらずとも、貴女だけですよ。」
「あなたの心配をしているのではございません。ただ、弄ばれた相手の姫君がおかわいそうと思っただけです。」
嫉妬ではないのだと言うその頬は、なぜだか赤く染まっている。
「私の本気は貴女だけのものと、漸くわかっていただけたのですね。」
そう言いながら、妻の体を軽々と抱き上げて、臥室へと向かう。
「そ、そんな事をお話ししているのではありません。離してください。」
「そろそろ認めていただいてもいいと思うのですけどね。貴女の心は私のものだと。」
矜持が傷ついたと思った些細な出来事など、もう彼の心からは消え去っていた。
本当は、言われなくても分かっているのだ。その心をもう私にくれたことなど。
けれど、その唇から、きちんと伝えてほしいから。
ただそれだけのことで、私の心は満たされるのだから。
あとがき、という名の言い訳
あれれ?なんだか楸瑛が余裕だな?おかしいな。ヘタレ=彼のアイデンティティなのに。いやいや。
うちの珠翠殿はなんだかんだで楸瑛のことがお好きなようで…。
どうでもいいけど、飲み会の面子が楽しそうです。
劉輝は、余は仲間外れなのか…と体育座りしているのです。
