注意
ほんのちょっぴり桃色ちっくです
未成年の方及び苦手な方はまわれ右です
でもほんのちょっぴりなので、期待されてもそれはそれでごめんなさいです
上の注意事項はご了承いただけましたね。
それではどうぞ。
極の星
秀麗は眠れないでいた。
いつも通りに仕事を終えて帰宅し、食事の準備や子どもたちの世話と忙しく動き回った。
そのあと書斎で本に少し目を通し、いつもの時間に床についた。
それなのに何故だか目が冴えて眠れない。
幸い明日は公休日だ。多少眠くても、娘と息子と三人で昼寝をするのもいいかもしれない。
そう思い、隣に寝ている夫を起こさないように気を使いつつも、少しだけ体を起して彼の顔を覗き込む。
その顔が本当に安らかであることが、秀麗に自信と幸せを与えてくれる。
そしてまた、この顔を見ることが許された女人は自分だけだということが堪らなくうれしい。
ふと心に込みあげた愛しさに、耐えきれず銀色の髪にそっと触れる。
目覚めたときにこの髪が頬に触れていると朝から幸せな気持ちになる。
顔にかかっている髪をそっと直す。
今は閉じられている瞼の下には優しい瞳。優しいが、時に熱さを持った視線で秀麗を捉える瞳だ。
(絳攸さま)込み上げてくる愛しさを確認するように、心の中で愛しい夫の名を呼ぶ。
ふとその瞳が開かれ視線が交わった。
絳攸は眠っていると思っていた秀麗の心臓は、とくん、とはねた。
「絳攸さま、起こしてしまいましたか?」
夫の瞳に常にはない熱が籠っていることを訝しみながら、秀麗は問うた。
「…秀麗が呼んでいる気がして目が覚めた。秀麗こそ、起きていたのか。」
「はい、絳攸さまのお顔を見ておりました。」
正直に答えると、今度は絳攸の方が訝しむ様な表情に変わる。
「顔を?」
何故と問う夫に、秀麗は急に恥ずかしくなった。
「……、その、いつも、私のほうが先に眠ってしまうので、絳攸さまの寝顔を見ることなどありませんから。」
寝台で愛されたあとは、いつも気を失うように眠ってしまうし、
そうでないときでも、絳攸の腕の中に抱かれているだけで、心が安らいで眠りへと誘われてしまう。
だから秀麗が絳攸の寝顔を見ることなどほとんどないのだ。
けれど、今が夜でよかった。昼なら紅潮した頬を見られてしまうに違いない。
そう思いながらも、秀麗は言葉を継ぐ。
「ですから、どのようなお顔で眠っておられるのか、興味があったのです。」
「……。そうか、俺はどんな顔で眠っていた?」
「わたくしが、幸せになるようなお顔でした。」
「幸せになる、顔?」
どういうことだ?と問いながら絳攸は起き上がり、寝台の上に座ると、秀麗をその膝の上に抱き上げた。
耳に当たる絳攸の吐息が、秀麗の鼓動を早くする。
「思い上がりかもしれませんが、安らいで下さっているように見えました。
私の隣で絳攸さまが安らげるのであれば、それは私の幸せです。」
そう伝えると、絳攸は笑った。
「そうか、同じだな。」
「同じ、ですか?」
言われた意味がわからずに問い返す。
すると絳攸は秀麗の髪を手で梳きながら答えてくれる。
「俺も秀麗の寝顔が好きだ。俺の腕の中で、心底安心してくれているのがわかるからな。
この顔を見られる男が俺だけだと思うと、もっと幸せだ。ずっとその顔を守りたい。」
夫の言葉にきゅっと胸がつかまれたようになる。
こんな甘く切ない言葉を絳攸にもらえるのは、自分だけ。
そのことが自分に与えてくれる幸福のなんと大きいことか。
そっと顎に手をかけられて、そのまま口づけられた。
お互いの境がわからなくなるような、深い口づけを、何度も何度も繰り返す。
やがて絳攸の唇が、秀麗の唇を離れ首筋へと降りて行く。
自然と甘い声が唇からこぼれる。
秀麗は自分の体に生まれた熱い疼きを持て余して、絳攸の癖のある髪へ手を差し入れた。
喉が渇いたように声がかすれる。
「こうゆう、さま。」
漸く声に出して夫の名を呼ぶ。
返ってきた夫の声も僅かに擦れているように感じるのは、気のせいか。
「秀麗、もっと、見せてくれ。俺だけのお前の顔を、もっと見たい。」
熱のこもった視線でねだられて、否と答えることができるものなどいるのだろうか。
既に熱に浮かされたようになっていて、ぼんやりとしか考えることができない。
それでも首を縦に振り、是と答える。
そっと寝台の上に横たえられる。
肌に当たる絳攸の唇が一段と熱を帯びるのがわかる。
彼のしるしの花を体中に散らされる幸せ。
そして一つ花びらを散らすごとに自分へと向けられる彼の瞳にも、喜びがあふれているのが見て取れる。
その瞳をみると秀麗は体の中から溶けていくようだ。
そっと彼の掌に自らの掌を重ねる。
彼もそっと握り返してくれる。
分かつのではなく、互いの幸せを重ねあいながら二人の夜は更けていく。
星の名前シリーズ
あとがき、という名のいいわけ
ごくごく薄めながら若干ほんの少々気持ちだけ桃色なお話になってしまいました。
注意書きで期待された方、逆に申し訳ありません。
タイトルの極の星は北極星のことなのですが、お互いにとって安らぎでありたい、相手の幸せが自分の幸せという
二人のぶれない基準を北極星にたとえたつもりです。
仕事もプライベートも、二人は同じ方向を向いていて、それは確固たる指針があるからなのです。
絳攸さまは寝顔も美しいんだろうな。
2010年2月12日 小鈴
