金烏玉兎
 
 
ご注意
ほんのちょっとだけですが、桃色ちっくともとれる表現を含んでおります。
故に、未成年の方並びに、そういったものが苦手がという方コチラからお戻りくださいませ。
あいかわらず、ほんのちょっとだけ桃色ちっくかな?くらいなので、そこに期待はしないでください。
静蘭は清潔で爽やかなお兄さんだ!と信じていらっしゃる方も、お戻りください。
それ以外の方はスクロールで本文へどうぞ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
金烏玉兎
 
 
 
静蘭は体の上に重みを感じて目が覚めた。
 
驚いて目を開けたが、そこで起きていることを見ても、今ひとつ理解できない。
 
故に、その行為の意味を問う。
 
「姫、一体何をなさっているのですか?」
 
「こんな状態になるまで気付かないないなんて、武人失格なんじゃない?」
 
「……姫、話がかみ合っていませんが。」
 
「あらそう?」
 
「何をしているのですかとお聞きしているのですが。」
 
「あなたには、何をしているように見える?」
 
「私の上に乗っているように見えます。」
 
「わかっているなら、聞かなくてもいいじゃないの。」
 
「ですから、そうやって何をしているのかとお聞きしているのです。」
 
 
 
わざとはぐらかすような、妻の会話の進め方には慣れている。
 
しかし、この状態は、ちょっと、いやかなり、よろしくない。
 
 
 
無言のままの妻に根負けして、質問を変える。
 
「……、姫、私を挑発しているのですか?」
 
深夜、寝台の上で、愛しい妻に馬乗りになられて、一体夫としてどう反応したら良いというのか。
 
十三姫が自分の腕の外側に手をつき、上体を前傾させているために、
 
彼女の豊かな二つのふくらみが、自分に触れそうで触れないことも相まって、
 
はっきり言って生殺しの状態だ。
 
 
 
しかしそんな夫の気持ちなど斟酌するような妻ではない。
 
「ふふ、あなたのね、顔を見ていたのよ。」
 
ようやく最初の質問に答える気になったようだ。
 
しかしながら今の静蘭は、
 
二つ目の質問に対して可及的速やかなる回答を求めたい気分だった。
 
だがしかし、そんな夫の気持ちなど斟酌するような妻ではないのだ、断じて。
 
 
 
結局、静蘭は、妻の話に合わせながら、
 
最終的に自分の疑問を解決できるようにするという手段を取ることにした。
 
「顔ですか?そんなもの昼間にもいくらでも見ているでしょうに。」
 
「違うわ。寝顔を見ていたの。」
 
「寝顔を?そんなものを見ても楽しくも何ともないでしょう?」
 
「そうでもないわよ。だって涎を垂らしているあなたなんて、初めて見るもの。」
 
そう言われて慌てて口元に手をやる。
 
だが、そのしぐさを見た彼女が笑ったことで、ひっかけられたと気がついた。
 
「そんな顔で睨まないでよ。寝顔もやっぱりお行儀よくって綺麗だったから安心なさい。」
 
自分が慌てた様子がよほど面白かったのか、彼女はご満悦だ。
 
だが、そんなことよりも。
 
 
 
「どうして寝顔など見ようと思ったのですか?」
 
「気になったからよ。」
 
「気になった?」
 
「ねぇ、私たち結婚して何年になると思う?五年よ五年。
 
それなのにあなたったら、いつまでもいい顔しかしないんだもの。」
 
「それが何か問題でも?」
 
確かに、妻に心配や気苦労を掛けまいと、
 
いつも笑顔を心掛けてきたが、それが何か気にかかったのだろうか?
 
 
 
「あのねぇ、あなたはだれの前でもかっこつけたがるけど、それじゃあいつ休まるの?
 
ここはあなたの家で、私はあなたの妻よ。
 
私の隣で眠っているときくらい、気を抜いたっていいじゃない。
 
それなのに、涎の一つや二つ気にして。
 
それって妻としては結構寂しいんだってこと、全然わかってない。」
 
言いながら改めて怒りが込み上げてきたのだろうか。
 
ぷくりと膨らませた頬が愛おしく、つい笑ってしまった。
 
それが癇に障ったようで。
 
「ちょっと、分かってるの?」
 
また怒られた。
 
 
 
このまま怒っている姿を見るのもいいが、そろそろ反撃に移るとしよう。
 
そう思い、まずは自分の上体を起こす。
 
そして腰の上に座ったままの妻をそのまま捕まえた。
 
じっと瞳を見つめ、伝える。
 
「姫、怒らないでください。
 
貴女が私のことを愛して下さっているのはよくわかりましたから。」
 
「そ、そんな事を言っているんじゃないわよ。」
 
圧倒的優位から、瞬時にして戦況が変化したことに気付いた妻は、逃げようと試みている。
 
だが、逃がすものか。
 
背中にまわした腕に力をこめ、唇が耳に触れるほど近づいて、さらに囁く。
 
 
 
「わかっていないのはあなたのほうですよ、姫。」
 
「ななななな、何が分かってないって言うのよ。」
 
頬を真っ赤に染めた姿も何もかも、この腕の中にいてくれることがうれしいのだ。
 
「愛する女性の前で、少しでも見栄を張りたい繊細な男心です。」
 
ぼっと音がしなかったのが不思議なくらい、十三姫の顔が赤くなる。
 
それでもなんとか些細な抵抗を試みようとする。
 
「何よ、うまいこと丸め込んで私の前ではいい顔しかしないんでしょ。」
 
「私の他の顔が見たいのですか?」
 
「見たいわ。だって妻だもの。私だけの顔を知りたいじゃない。」
 
そんなに大胆な告白を恥ずかしげもなく聞かされて、理性を保つのも限界だった。
 
「それなら姫に見せて差し上げましょう。」
 
そういうと、妻の顔がうれしげに綻ぶ。
 
それを確認した後で、ただし、と付け加えるのを忘れなかった。
 
 
 
「姫の、イイ顔と交換です。」
 
そう聞こえた時には完全に二人の位置は逆転し、気づけば十三姫は静蘭に組み敷かれていた。
 
見上げれば、夫が美しい顔にさらに美しいほほ笑みを浮かべている。
 
「姫のご希望をかなえるためですから仕方ありませんね。」
 
別の顔が見たいなどといった自分を後悔したが、遅かった。
 
「さぁ、まずは姫のイイ顔をたくさん見せていただきましょう。」
 
そう言いながら首筋を舐めあげられて、そのあとは彼にされるがままだった。
 
 
 
 
 
翌朝、寝台から起き上がることが出来ぬままで、それでも妻は抗議の言葉を忘れなかった。
 
「ずるいわ。」
 
「何がずるいのですか?」
 
「……あなたの顔、見えなかったじゃない。」
 
何度も意識を飛ばされて、とても夫の顔を見るどころではなかったと訴える。
 
「自分で見たいと言っておいて見なかったなんて、ひどい人ですね。
 
でも私は優しい夫ですから、今夜もあなたの為に努力いたしましょう。」
 
見た目だけなら爽やかな笑顔でそう言われて。
 
「やっぱりずるい。」
 
そう言ったきり、掛布の中にもぐってしまった十三姫であった。
 
だから、彼女は見ることができなかった。
 
夫の顔に浮かんでいたのが、安らぎと慈しみにあふれた表情であることを。
 
 
 
全く、彼女と居ると飽きるということがない。
 
きっと二人でいるうちにあっという間に老いて、それでも楽しく口論をしながら過ごすのだろう。
 
自分にこんな穏やかな日々が訪れるとは、予想もしていなかった。
 
それなのに、彼女は気付かない。
 
その存在だけで、どれほど自分が救われているかを。
 
だが、話してなどやるまい。
 
他の形でそれを知らしめる機会など、これからいくらでもやってくるだろうから。
 
だから今はまだ言葉には出さないでおく。
 
普通の日々をくれたあなたに、ありがとうと。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 星の異名
 
 
 
 
 
 
 
 
あとがき、という名の言い訳
 
え~と。とりあえずいろいろすいません。
小鈴の中の桃色要素は全部出し切りましたが、桜色くらいにしかなりませんでした。
それもかなり古木の桜っぽい。
今回の趣旨は静蘭に例のセリフを言わせたい、だったので小鈴的には満足ですが。
静蘭は毎日ふつーにお仕事に行くけど、十三姫は半月くらいは室から出られないようにされるハズ。
 
 
タイトルの金烏玉兎について
月にウサギというのはなじみが深いと思いますが、
同じように太陽には三本足の烏がいるそうです。
ですから金烏=太陽・玉兎=月。
転じて、太陽と月を繰り返す、つまり昼と夜を繰り返していく様子から歳月を示す言葉としても使われるそうです。
はぁ、ヲタクのためにいろいろ調べては賢くなる気分を味わっております。(←気分だけ)
 
 
星の異名・夜の寝室で静蘭×十三姫を書こうと思った時に、一番困ったのは、何の星のエピソードにするかでした。
最初は軍神マースの火星を考えていたのですが、しばしば凶兆としてとらえられる火星はなんだか話に使いにくく没となりました。
(心を乱す静蘭を十三姫にとっての災の星に例えようと思ったのですが、あえなく挫折。和名の夏日星が使いたかった、くすん。)
 
その流れでギリシャ神話の神々を見ておりましたら、アポロンを見つけました。
音楽・弓矢の神にして理性的・知性的であると同時に、人間を疫病で虐殺するなど、冷酷な残忍さをも併せ持っている
コレいいじゃんと思ったまでは良かったのですが、
タイトルにふさわしい太陽の異名がなかなか見つからなくてですね。
日輪じゃなんかイメージと違うし。
やっと見つけた金烏も、単体だとカラスじゃんということで、
とこしえに続く二人の日々と静蘭にとっての太陽ということで、
金烏玉兎とつけさせて頂きました。
 
あいかわらず、小鈴のお話は、あとがきで説明せねばならんことが多すぎますね。
本文の中でシンプルに、かつ効率的にこういった背景を織り込めるように精進します。
 
 
静蘭にこんなことをさせて良かったのか、いやでも小鈴のなかではこういう人だしなと、どきどきどきどき。
そして、もしよければ感想など頂けると、参考になります。賛でも否でもお気軽にお願いします。
 
 
 
 
 
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