Strawberry shortcakes 楸瑛×珠翠

 

Strawberry shortcakes~楸瑛と珠翠の場合~

 

 

台所に篭ったまま出てこない夫を訝しんで、珠翠はとうとう声を掛けた。
「旦那様?何をなさっておいでですの?」
そう言って覗いた珠翠の見たもの。
宮城内でもめったと見せないほど真剣な面持ちの夫。
その視線の先、長く整った指で壊れ物を扱うかのように優しく整えられていく、それは。
 
 
「ストロベリータルト?」
「はい。紅州で採れた良い苺があると、絳攸が分けてくれたので。
もう少しで完成ですから、待っていてください。」
そういう夫の美しい顔。その整った鼻梁の先に珠翠は手を伸ばす。
「クリームが付いておりますわ。」
そう言って拭った指先を捕らえられ、抵抗するまもなく、彼に指を舐められる。
 
「ありがとうございます。でも、どうせなら舐め取ってくださればよかったのに。」
「そ、そんな恥ずかしいことできません。本当に貴方は変わりませんわね。」
そういうと珠翠は、逃げるように台所を出て行く。
 
残された楸瑛は一人呟く。
「変わらない?
昔の藍楸瑛は、こんなことでいちいち胸を高鳴らせたりすることはありませんでしたよ。」
 
程なくして、タルトは完成し、手ずから入れた茶と共に珠翠に振舞う。
我ながら、見た目も味も、申し分ない出来だ。
妻も喜んでくれるに違いない、そう思ったのに。
 
「どうしてタルトですの?」
「え?」
「苺といえば、ショートケーキでしょう?どうしてタルトですの?」
「……タルトはお嫌いですか?」
「そうではありませんけれど。なんだか貴方らしいというか。」
「私らしい?」
「はい。
主役の苺が沢山乗っているところが、
あちらの花にもこちらの花にも気を持たす旦那様のようですわ。」
 
急に機嫌の悪くなった妻に楸瑛は苦笑する。
「逆、だったのですけどね。」
「逆?」
「貴女の愛だけを、たくさんたくさんいただきたい、
貴女にも私の愛だけをたくさんたくさんうけていただきたいなという意味です。」
 
あっという間に妻の顔は赤く染まる。
「恥ずかしげも無くそんなことをおっしゃる殿方ほど、信用ならないものはありません。」
 
そういいながらも、タルトにフォークを伸ばす。
それを見て楸瑛が破顔すると、珠翠は慌てた様に言った。
「苺に罪はございませんもの。」
 
「珠翠殿、私は何も言っておりませんよ?」
くすくすと笑いながら楸瑛は言う。
「相変わらず、ずるい人。」
そういいながらもタルトを食べる珠翠の顔に、浮かぶ笑顔。
「ずるいのは貴女です。」
そう言った楸瑛の言葉は無視された。
 
全く、その言葉の一つで私を天国にも上らせれば、地獄に突き落としもする。
そんなことも気付かない。
本当に貴女はずるい人。
楸瑛は今度は心の中でだけ、呟いた。
 
 
 
   静蘭×十三姫編      紅家編
 
 
 
あとがき、という名の言い訳
 
既にショートケーキの話じゃない…。
珠翠がお嫁さんになってくれるなら、楸瑛は家事をまめにしそう。
珠翠があの棚に手が届かない…踏み台を持ってこようかしらとか思っているそばから、
無駄の珠翠の後ろから取ってあげてしかも無駄に珠翠を抱きしめる、みたいな。
(無駄無駄言うちゃいかん)
本命の前でのカッコつけについて、静蘭大先生に教えを請うといい。
ついでだから劉輝も一緒に教えを請うといい。
そんな姿を絳攸に呆れられるといい。
 
 
 
 
 
 
 
 
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