白魔と青女
 
 ご注意
 
読みようによっては若干桃色ともとれる表現を含んでおります。
したがって、未成年の方及び、そういった表現を苦手とされる方は
こちらよりご退室ください。
また、静蘭は爽やかで清潔で親切な素敵なお兄さんだと信じており、
今後もそのイメージを壊したくない方もご退室ください。

 
それ以外の方はスクロールで本文にお進みください。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 白魔と青女
 
 
 
 
 
降り積もった雪に、喜びを隠しきれない表情で、
薄着のまま今にも庭院に駆け出して行こうとする妻を、寸前で何とか抱きとめた。
 
止められたことを不満に思っていると隠そうともしない、
そんなところも好きだと静蘭は思った。
 
眉も、瞳も、くちびるも、全てが
真っ直ぐでそれでいて強気な、彼女の性格をよくあらわしている。
 
「まったく、じゃじゃ馬ですね。目が離せない。」
「あら、褒めてくれてありがとう。
でも、単に乗り手の技量が足りないからかもしれないわよ?」
 
口の減らないところも可愛い。そんなことは絶対に伝えてなどやらないが。
「確かに一理あるかもしれません。甘く接するとつけ上がるのは人も馬もおなじ。」
 
そう言うや否や、静蘭は妻を肩の上に担ぎあげる。
これには流石の十三姫も驚いたようだ。
「ちょっと、何するの?おろしてよ!」
「安心してください。ただちょっと調教しなおすだけですから。」
そう言いながら、向かう先はもちろん臥室。
 
肩の上の妻は「それのどこが安心できるっていうのよ!」そういってますます暴れるが知ったことか。
 
寝台の上に無造作に放り出す。
途端に逃げ出そうとすることは予想済みだから、簡単に抑え込む。
彼女は確かに女人としては格段に腕が立つ。
しかし、こちらも武人。
そうでなかったとしても、夫の面子をかけて、逃がすわけにはいかない。
 
暴れる両腕を絡め取り右手で押さえつける。
同時に彼女の腰の上に乗って抑え込む。
それでもさらに身をよじって抵抗しようとするが、
その間に空いている左手で彼女の帯を解き、
その帯を使って、押さえている両手の枷とする。
 
両の手を戒めただけでなく、そのまま寝台の上部に括りつけたから、
如何な彼女とて、これでもう逃げられない。
 
そうして改めて妻の顔を見下ろす。
美しい眉も黒い瞳も赤く濡れた唇も、全てが怒りと恥辱に満ちている。
そう、これこそが自分が一番好きな彼女の顔だ。
 
「ちょっと、どういうつもりよ、解いてよ。」
腕の戒めが気に食わないらしい。
しかし、この状況でも懇願でなく要求するのが彼女なのだ。
 
「繋いでおかねば、どこに攫われるか、逃げてしまうかわかりませんからね。
必要な措置です。」
 
言外に解くつもりはないと告げる。
 
「こんなことして、一体何をするつもりよ!」
 
あくまでも強気な言葉。
そんなところももちろん好きだが、そろそろ少し困った顔も見たい。
 
「姫は、ナニをして欲しいですか?」
 
含みを持たせて笑いかけると、とたんに赤面し、黙りこむ。
そう、普段の強気とは裏腹に、彼女はこういった事には初心なのだ。
それは、結婚以来何度相臥ししても、変わることはない。
今も、自分のそのような態度がどれだけ男を煽るのか、粒ほども理解していないだろう。
そう思いながらただ無言で彼女を見遣る。
 
しばしして、彼女の口から洩れた言葉。
「…お、ねがい。ねぇ、…解いてよ。」
先ほどまでとは別人のように大人しく、小さな声で懇願する。
 
だからそういう態度が、男を狂わせるのに。
時々全てわかってやっているのではとさえ思いたくなる。
やはり、もう少しこのままにしておかねば。
 
「残念ですが、解いて差し上げることはできません。」
 
懇願すれば解いてもらえると、淡い期待を抱いていたのであろう。
彼女の瞳にはあからさまな落胆の色が浮かんだ。
 
「どう、して…。」
少しだけ涙がにじんで潤んだ瞳が、より一層扇情的に見せる。
 
「言ったでしょう。
今まで甘くしていたツケがまわってきたのですから、
私も心を入れ替えて、貴女を調教しなくては。」
「……調教って、何よ。」
「貴女の想像している通りのことですよ。」
そう言って微笑み、彼女の表情を観察する。
 
最初に見えたのは困惑、そして恐怖と怒り。
くるくると表情を変えて飽かせない。
 
「最低ね、いくら夫婦だからって、やってもいいことと悪いことがあるでしょ!」
「……姫、何を誤解なさっておいでかわかりませんが…」
「誤解も何もないわよ、こんな自由を奪って無理やりなんて。見損なったわよ!」
「…私がどれだけ貴女を愛し、心配しているか、お話しすることがそんなにいけないことですか?」
「いいわけないで……、って話?」
 
みるみる赤く染まる顔の訳は、怒りではなく羞恥だ。
黙り込んでしまった妻にさらに畳み掛ける。
 
「姫に見損なわれたなどと言われ、私は傷つきました。
ただ、こんなにも姫を愛しているだけなのに。」
 
怒りと誤解によるものだったとはいえ、彼女が放った言葉には違いない。
そこをうまく使わせてもらう。こちらに手駒を寄こしたのは彼女だから、遠慮なく。
 
「……、悪かったわ。ちょっと、勘違いで…。」
 
悪かったと思えば謝る、そんな真っ直ぐさ。
自分にはないもの。こんなにも愛おしい。だからこそ、苛めたくなるのだ。
全ては、貴女のせい。嵐を巻き起こす、可愛いくて残酷な女神。
 
「いったいどんな勘違いをすれば、あのような言葉につながるのか、
私には皆目見当もつかないのですが、よろしければ姫、教えていただけますか。」
「……いいいいい、いいでしょそんなこと。勘違いしたのは謝るから。」
「姫にとっては私の心の傷などその程度のものなのですね。」
 
大げさに嘆いてみせる。
「わかった、話すから、笑わないでね?」
無言で次の言葉を促す。
 
「…その、無理やり、されるのかと思ったの、夫婦のことを…」
 
羞恥からか、顔どころか首、そして襟からかすかにのぞく胸元までほんのりと朱がさしている。
それを見ながらわざと大きく嘆息する。
 
「私が、姫の嫌がることなどするはずもないのに。
それにしてもどこからそのような誤解が生まれたのでしょうね。」
 
自分で誘導しておいて白々しいとさすがに思ったが、それでも彼女の反応は予想通りのものだ。
所在無げに膝を擦り合わせ、視線も定まらない。そこにさらに告げる。
 
「もしかして、姫、期待をしていたのですか?」
「そんなわけ、ないじゃない。」
弱弱しい応えに、説得力などまるでない。
「そうですよね。よもや姫がそのような淫らなことを。」
そう言いながら、腕の戒めを解いてやる。
 
その様子を見る妻の目には少しだけ安堵の表情が戻ってきた。
それを見ながらさらに告げる。
 
「ところで姫。私の心の傷はどうやって癒してくださるおつもりですか?」
「…さっき謝ったじゃない。」
「あの程度では全く足りません。もっと、姫の愛を見せてくださらないと。」
 
十三姫はしばし逡巡し、そのあと上体を起こした。
「ごめんなさい。旦那様、愛しているわ。」
そうして彼女のほうから口づける。その瞬間に背中を捕まえた。
すぐに離れていこうとする唇を割り裂いて、温かな口の中を味わう。
彼女が時々洩らす、息か声かその間のようなものがより一層静蘭を駆り立てる。
 
口づけたままで妻を再度横たえて、ようやく唇を離して問う。
「姫、傷ついた私を癒してくれますね。」
 
彼女は勿論是と答えるほかないのだ。
だってこれは全て彼女が仕組んだこと。そう思いながら、彼女の熱に落ちて行った。 
 
 
雪シリーズ
 
 
風花 (楸瑛×珠翠 夫婦設定)
 
不香の花 (劉輝と珠翠 それぞれの切ない片思い)
 
天華 (李姫 夫婦設定)
 
 
 
あとがき、という名の言い訳
 
最近静十を書くとなぜだか桃色風味になってしまう。
静蘭のせいだな。きっとそうに違いない。
こんな静蘭、どうですか?
だめですか?
ちなみに小鈴は結構好きです(←聞いてないから)
 
タイトルについて
白魔とは災害となるほどの大雪を悪魔に見立てた言葉、
青女とは雪や霜を司る女神です。
十三姫に心をかき乱される、基本心配性かつ嫉妬深い静蘭
そんな静蘭に全力で愛情表現される十三姫の苦労
この二つを表すのにこんなにぴったりの言葉があるなんて♪とこの言葉を使って二人を書くことは即決しました。
 
内容ものりのりで書いたのですが、果たしてこれがセーフなのかアウトなのか
はたまたアウトだからこそOKなのかさっぱりわかりませぬ。
ちょっと薄着で外に出ようとしただけでこんなことになるなんて十三姫も大変だね。
静蘭の楸瑛に対する仕打ちと十三姫に対する愛情を足して3で割ったらいい感じになるんじゃないでしょうか。
2で割るとまだ濃い感じ。
 
これでも二人はじゃれてるだけですから。楽しそうな人生だな。
 
2010年2月24日 小鈴
 
 
2010年4月23日 前後編に分割していたものを1ページに統合
 
 
 
 
 
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