My Sweetie 楸珠
My Sweetie 楸瑛×珠翠編
「珠翠殿、お茶にしませんか？」
楸瑛は室の中で本を繰っていた妻に声をかけた。
珠翠は意外なほどあっさりと彼の提案を受け入れた、かと思ったのだが。
「そうですわね。
ちょうど良い菓子が手に入って、食べたいと思っていたところでしたの。」
そう言って室を出て行った妻の背中を、楸瑛はただ見送ることしかできなかった。
片手に持たれた箱が、あまりに空しい。
こんなことなら、素直に渡せばよかった。
しかし彼女のことだ。いらないなどと言うかもしれない。
それならばとお茶を飲む振りをして、お茶菓子として彼女に食してもらおうと考えたのだが。
作戦が、裏目に出てしまった。
「どうやって、渡そうか。」
ひとりごちる。
彼女はいつも、こうやってひらひらと自分の伸ばした手のひらの間をすり抜けていってしまう。
一体、いつになったら、この手に止まってくれるのか。
そんなことを考えている間に、珠翠が戻ってきた。
その手に持たれた盆の上。用意されているのは、お茶だけだ。
「たしか、手に入った菓子を食べたいと仰っていませんでしたか？」
わけがわからず楸瑛は問う。
すると、愛する妻は微笑んで答えた。
「ええ、旦那様が手ずからお造りくださったものですから、
滅多にはいただけないものでございましょう？」
その答えに唖然とする。
「…ばれていたのですか。」
「衣のにおいでわかります。」
「やはりあなたには敵いませんね。」
「さぁ？何のことでしょう？
それよりも、私には食させていただけないのですか？
よその姫君の分でしたかしら？それならそれで構いませんけれど。」
そういって再び室を出て行こうとする妻を後ろから抱きとめる。
「お茶、入れてくださるんでしょう。」
「それでは、座ってお待ちくださいませ、旦那さま。」
そういうと珠翠は手際よく茶を注いでいく。
そうして楸瑛の前に茶を置くと、自分の椅子に戻ろうとする珠翠を捕まえて、
膝の上に座らせた。
普段は抵抗する珠翠も、今日は大人しく座ってくれる。
「さぁ、珠翠殿、口を開けてください。」
当然手ずから食べさせようとする楸瑛に、珠翠はさすがに顔を赤らめた。
「食べるくらい自分でできますわ。」
「だめです。これは私が食べさせて差し上げます。」
「大丈夫です。」
「だめです。」
その日の藍邸には、主夫妻の賑やかな声が夕方まで響き渡っていたという。
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