「あの、百合さん、これ、良かったら。」
息子が恥ずかしげに差し出した小袋。
「?なぁに?私に?開けていいかしら?」
彼が頷くのを確認して、開封する。
中から出てきたのは、焼き菓子だ。
「…まぁ、これどうしたの?」
何気なく問うと、息子は何故だか顔を赤らめながら答える。
「俺が、作ったんです。ホワイトデーだから…。それで、百合さんにもと思って…。」
「絳攸の手作りなの?秀麗ちゃんのついででもうれしいわ。」
「いや、その、ついでとかそういうことでは。」
あわてた様子の息子が可愛い。
血のつながりはないし、ずいぶん遠回りもしたが、
こうした小さな気遣いややり取りの積み重ねが、
自分たちを家族として確かに結び付けている。
「ありがとう、絳攸。」
そういうと百合は息子を抱きしめた。
絳攸は真っ赤になりながら、
「それよりも、黎深さまのところに行かれた方が良いのでは?」
などと言ってくる。
せっかく母子の時間を楽しんでいるのになぜ、そこで黎深が出てくるのか。
「黎深さまは、きっと百合さんを待っておられると思います。」
いつになく真剣な顔で絳攸が言うので、仕方なしに黎深の室に向かう。

黎深×百合姫編 後編 へ続く
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