「姫、こちらにいらしてください。」
椅子に優雅に腰掛け、嫣然と微笑む夫の姿は、麗しい。
悔しいが女でかつ妻の自分よりも彼のほうが麗しいことは認めるしかない事実である。
しかしながら氷の微笑とでも言おうか。
何か良くないことが起きる、気がする。
伊達に彼の妻をやっていない。彼の頬笑みは魔性の部類に入るものだ。
そして、伊達に彼の妻をやっていないので、
こういうときは早めに従っておくに限るということも知っている。
前に変に抵抗した結果、彼の闘志に火をつけることになり、大変な目にあった。
仕方なく彼の傍に寄る。しかしさらにこちらへと手をひかれ。
「何なのよ、この格好は!!!」
彼の膝の上に座らされるだけでも充分恥ずかしいというのに。座り方がおかしい。
「いとしい妻の顔を見たいという、夫のささやかな願いですよ。」
という分かったような分からないような理由で、
彼に向かい合い、彼の腿の上に跨るように座らされている。やはり、これは、かなり。
「……恥ずかしい。」
「その方がいいんです。」
そしてまた、あの魔性の頬笑み。
「……何が、いいのよ。」
「貴方が、大人しくしてくれるから。」
「いつも、大人しくないみたいな言い方ね。」
「自覚してないんですか?」
「……多少しているけど。」
「それならもう少し大人しくしてください。」
「無理よ。それに、あなた、必ず捕まえてくれるじゃない。」
「当然です。貴女の夫ですから。」
「……言ってて恥ずかしくないの?」
「全く。本当のことですから。」
悔しいけれど、絶対にこの人には敵わない、のかもしれない。まだ認めたくないけど。
「さぁ、姫。口を開けてください。」
「なぁに?」
「いいから、さぁ。」
言われるがまま口を開ける。すると放り込まれた甘いもの。
「どうですか?」
「…おいしい。あなたの手作り?」