はたして、黎深は室に一人、不機嫌そうに座っていた。
彼の傍らには琵琶。
その姿を見た百合は、自然と笑いが零れる自分に気づいた。
「何がそんなに可笑しい?」
黎深は不機嫌さを隠そうともしないまま問うてくる。
「何でもない。ね、黎深、琵琶弾いてよ。」
「お前がそう頼むなら、特別に弾いてやらんこともない。」
「それでね、それが終わったら黎深に膝枕もしてほしいな。」
「まぁ、お前が頼むのだからいいだろう。」
「ねぇ黎深。好きだよ。」
「そんなことは言わずとも分かっている。」
照れ隠しのようについと横を向き、琵琶の音に狂いがないか確かめ始めた黎深を見て、
百合はもう一度破顔した。
不器用な黎深がくれた、不器用な家族。
けれど、精一杯のやり方で、自分を幸せにしてくれる温かい家族。
琵琶の用意ができたのか、黎深がこちらを向いた。
「さっきから、何を笑っている?」
「ん?いや、幸せだなと思って。」
「お前はそんな当たり前のことで笑うのか。相変わらずおかしい奴だな。」
そういうと黎深は琵琶を爪弾き始めた。
黎深、君は分かっていないよ。
幸せが当たり前だってことがどれだけ幸せかを。
そう思いながら百合はただ、琵琶の音に耳を傾けていた。