静蘭×十三姫
夫婦設定
政略結婚的に結婚に踏み切ったため、
お互い相手には別に好きな人(秀麗・迅)がいると思っているすれ違い夫婦
以上の設定をご了承いただける方のみお進みください
索咲の客~さくしょうのきゃく~
「姫、もう少しゆっくりいきましょう。」
「あら、うちの旦那様は、この程度で根を上げるの?」
「そうではありません、雪が残っているのです。滑ったりしたらいけないでしょう。」
「私がどんな家で育ったと思っているの?このくらいで転んだりしないわ…っと。」
言った傍からぬかるみに足を取られて傾いた妻の体を、
静蘭はそのまま掬いあげ横抱きにしてしまう。
「まったく、貴女は捕まえておかないとすぐにどこかに行ってしまう。」
だから下ろす気はないと言外に示されても、それで黙っている十三姫ではない。
「だって早く見たいじゃない。もうこんなに香りがするんだもの。もうすぐ近くよ。ね、おろしてよ。」
「おろせばまた貴女は走るでしょう?」
「走らないからおろしてよ。」
意地でも腕から逃れようとする妻に、自分もまた意地になるのがわかる。
「そんなに、私の腕の中は、嫌ですか?」
ちょっとした意地悪だ。予想したとおり、妻の顔が赤くなる。
「い、嫌ってわけじゃないけど、恥ずかしいじゃない。」
「ここには二人しかいないから恥ずかしくないですよ。」
「そういう問題じゃないの。私が恥ずかしいの。おろしてったら。」
「それ以上騒ぐともっと恥ずかしいことをしますよ、今すぐ。」
冗談のように発せられた夫の言葉が、その実全く冗談でないことは知っている。
それでも悔しいから、一言ぐらい文句を言っておこう。
「まったくうちの旦那様は横暴ね。」
しかしその瞬間、夫の爽やかな笑顔を向けられ押し黙る。
「姫、何かおっしゃいましたか?」
誰がどう見てもさわやかな笑顔のはずなのに、目だけが笑っていない。
「いいえ。あなたの気のせいでしょう?」
笑ってごまかすが、背中に冷たい汗が流れおちる。
「気のせいですか、残念ですね。
せっかく恥ずかしいことをして差し上げようと思ったのに。」
心底残念そうだ。いったい何をするつもりだったのだろう。
どうせ良からぬ事だから、考えないことにしよう。
ただでさえ愛しい人との密着で鼓動が跳ね上がっているのに、
これ以上何かされたら、どうなるかわからない。
そのまま無言で運ばれて、漸く目当てのものにたどり着く。
その姿に思わず十三姫も声を上げる。
「桜もいいけれど、やはり匂いなら梅ね。匂草というくらいですもの。」
異名を口にした妻に、静蘭も応える。
「私は索咲(さくしょう)の客のほうが好きですね。」
「まだ冬が終わらず春浅いころにその花を探し求めるっていう?」
よどみなく答えた十三姫に静蘭がおやという顔をした。藍家の娘を侮ってもらっては困る。
「私だってそのくらい知っているわ。でも、なぜその名が好きなの?」
「私と同じですから。」
それだけ言うと夫は微笑を浮かべた。
「は?何言ってるの?意味がわからないわ。」
「私も早く春が来ないか、花が咲いていないか捜し求めているのですよ。」
「探さなくたって、春なんか待っていれば自然に巡ってくるじゃない。」
どうやら十三姫は本当に意味がわからなかったようだ。
貴女の心が欲しくて欲しくて、兆しでもないかと捜し求めるこの気持ちなど、気づきもしないのだ。
それでも。
「そうですね、春が来るのを待ちましょう。」
穏やかな笑顔を向けられてもまだ、わけがわからないと首をかしげる十三姫だった。
あとがき、という名の言い訳
とある彩/雲サイトマスターさまのカレンダーで1月が楸珠の梅の絵だったのですが、
それがあまりにも素敵で触発され、楸朱で梅話を書きまして。
しかも勝手に送りつけた。
先さまは呆れていらっしゃることでしょう。
あぁぁCさまその節は失礼いたしました。
ご本人様がこれを御覧になることはあり得ないと思いますが、それでも書いておきます。
申し訳ありませんでした。
そんなわけでここには楸珠話を載せることはできないのですが、
梅の異名を調べていたらいろいろと素敵なものが多くて、
それぞれの異名ごとに各カプのおはなしにしようと思いつき、勝手に梅シリーズ。
どこまでも勝手な女小鈴。
ちなみに梅もまたバラ科rosaceaeです。
静蘭×十三姫の需要がどの程度あるのかよくわからないのですが、
小鈴の中では定番カップルなのですよ。
意地っ張り・すれ違い・本当はらぶらぶ夫婦。