春告草~はるつげくさ~:はつゆき
お花見くらいならいいですよ。
あまりにしつこいから何気なく言った言葉を、こんな形で叶えてくれるとは思わなかった。
「約束通り、お迎えにあがりました。」
いつものように突然現れて、脈絡のないことをいう。
「お約束などしておりません。」
本当に、覚えていなかったから、いつもの彼の冗談だと思って受け流した。
「花見になら付き合って下さる約束でしょう?」
そう言われて思い出した。
確かに、あしらう為にそんなことを言った。
「…でも、こんな季節にお花見でもないのでは?」
空気は身を切るように冷え、地面は白く覆われて、とても花見などできまい。
それなのにただ暖かくしてくださいとだけ言われ、手をひかれるまま外に出る。
扉を開ければやはり雪。
「足もとが濡れないようにしましょう。」
そう言われて気がつけば、彼の腕の中に掬われた。
しゃり、しゃりと雪を踏む音が、彼の足もとから聞こえる。
そうして向かったのは梅の木の下。
雪をまとった枝の先に、確かに開く花を見つけた。
「はるつげくさとも言うそうです。」
私の春はいつ来るのでしょうと他人事のように笑う。
そんな姿に不覚にも安らぎを感じてしまった。
雪の上についた足跡は、あなたのもの一つだけ。
その後ろに私の足跡がないことを、幸せだけど寂しいと思ってしまった。
それはまだ私だけの秘密。かわりに次の約束を。
「春になったら桜も見せて下さいね。」
私のたった一言で、花にも勝る笑顔をくれる。
それもまだ、私だけの秘密。
あとがき、という名の言い訳
梅シリーズの楸瑛×秀麗編です
そもそもこの はなぞむかしの シリーズは、この楸瑛×珠翠編が、最初の作品でした。
そして、恥知らずにも、あの楸朱の
ultrablueのちひろさま(超尊敬・勝手に崇拝中)に勝手に献上いたしました。
ちひろさまは、突然のことにさぞや驚かれたに違いない。再度お詫び申し上げます。
そして、優しいちひろさまが、Rosaceaeでの掲載もOKしてくださったので、本日公開と相成りました。
献上した時は、はつゆき というタイトルでした。初雪と初行き(=楸瑛と珠翠の初デート)をかけたつもりだったのですが……。
今回こちらに掲載するに当たりまして、他の はなぞむかしの シリーズ他作品とのバランス上、梅の異名で作中にも出てくる春告草に改題しました。
そしてここからが重要なところなのですが!
小鈴にこの妄想のモトを与えてくださった超美麗イラストを含むカレンダーは
2010年2月16日現在まだ通販可能のようです。
ちひろさまの許可もとらずして勝手に宣伝。
妄想膨らむ素敵なカットがたくさん。ひと月ごとに妄想文を考えたいくらい。
小鈴は毎日このカレンダーを拝んでおります。
本当に素敵なのです。
ただ、ちょっと劉秀に心が揺れる…。
最後に、数々の小鈴の勝手な行いにもかかわらず、快く掲載をOKしてくださいましたちひろさまへ。
本当にありがとうございます。
2010年2月16日 小鈴
小説TOPへ