はなぞむかしのー風待草

 

李姫夫婦設定をご了承のうえお進みください

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風待草
 
 
息子夫婦の許に遊びに来た百合は、先日二人が見に行ったという梅の話を聞いていた。
 
秀麗が絳攸に嫁いできて以来、百合は娘というよりも妹のような嫁と仲良くしていた。
 
「そういえば、昔、梅を見に行ったことがありましたよね。三人で。」
 
そういったのは絳攸だった。
 
「行ったかな?よく覚えてないけど絳攸がそういうなら行ったんだよね。」
 
「そう、たしか、家人の誰かから梅が咲いたと聞いて……」
 
 
 
 
 
「黎深・コウ、梅の花が咲いたらしいから見に行こうよ。」
 
そう誘ったのは百合だった。
 
百合と出かけられるということで、コウは嬉しかったが、黎深の反応は色よいものではなかった。
 
「梅だと?梅よりスモモのほうが好きだと言っているだろう。」
 
「じゃあ黎深はいかないんだね。いいよ、コウと二人で行くから。」
 
そういってコウの手を引くと、さっさと室を出て行こうとする百合の前に扇子が飛んでくる。
 
「待て、行かぬとは言っていない。お前がどうしてもと頼むなら行ってやらんこともない。」
 
「ナニそれ?別に頼む気なんかないし、行こうコウ。」
 
百合は黎深のことなど気にもしない様子で出て行こうとする。
 
慌ててコウは言った。
 
「れ、れいしんさまも行きましょう。きっと三人で行ったほうが楽しいですし。」
 
「ちょっとコウ何言ってるの?こんなワガママ坊ちゃん放っておけばいいんだよ。」
 
「百合さん、ぼく、どうしても三人で行きたいです。」
 
なぜだかコウの額にはうっすらと汗の珠が浮かんでいる。
 
それを見た百合は、(コウって本当にいい子ね。黎深の毒に染まらないように私がしっかりしなくちゃ)と思っていた。
 
一方黎深も、
 
「そのコドモがそこまで頼むのだ。せっかくだから行ってやろう。」
 
そう言うといそいそと立ち上った。
 
 
 
そうして三人で軒に乗り、付いた梅園は話の通り、今が見ごろと梅の花が咲き誇っていた。
 
「うわぁ、きれいですね。それに匂い草というだけあって香りもいいです。」
 
コウは嬉しそうにはしゃいでいる。
 
百合もそんなコウを見て
 
「コウは本当に賢いね。一度読んだ本はすぐ覚えてしまうんだね。」
 
と喜んでいる。しかし、黎深だけは不機嫌なままだ。
 
「ちょっと黎深。来たなら楽しみなさいよ。」
 
見かねて百合が声をかけても、
 
「やはり、嫌いだ。風待草など。
 
そう言ったきり黙ってしまった。
 
そのあと百合とコウでいろいろ話を振ってみても、黎深は黙ったままだった。
 
 
 
 
絳攸の思い出話を聞いた百合は、
 
「そういえばそんなこともあったかしら?
 
なんせ黎深のワガママなんて数えるのもいやになるほど付き合わされたよく覚えてないよ~。」
 
そう言って笑っている。
 
一緒に話を聞いていた秀麗は、ふと思うことがあって口を開いた。
 
「絳攸さま、その時お義父さまは、風待草など嫌いと仰ったのですね?
 
「あぁ、確かに風待草と言っていたな。」
 
「それでしたら、お義父さまのお気持ちもわかります。」
 
秀麗の言葉に、絳攸だけでなく百合もどういうことかと視線を向けてくる。
 
「風待草という異名は、春風を待って咲くところからついたものでしょう?
 
お義父さまはきっと、風の訪れを待って咲けずにいる梅を悲しいと思われたのです。」
 
そう言われて百合には思い当たることがあった。
 
確かに黎深は待つことが嫌いだ。
 
嫌いなくせに、いつも待っている。
 
かつては兄を、そして今は、自分を。
 
天つ才と引き換えに与えられたその特異な性格のせいで、
 
戻ってきてほしいとは言えずただ、髪が伸びたと手紙を送ってきた黎深。
 
風待草が嫌いとは、不器用な彼なりの寂しさの表現だったのかと思いいたる。
 
黙ったままそんなことを考え込んでいると秀麗に声をかけられる。
 
「お義母さま、お義父さまのところに行って差し上げて下さい。
 
きっと待っていらっしゃいますから。」
 
 
 
 
言われるがまま戻ってみると、黎深はいつものように不機嫌な顔で座っていた。
 
「梅が咲いたそうだよ。」
 
百合の言葉に、
 
「嫌いだと、いっただろう。」
 
そうそっけない言葉が返ってくる。
 
百合は座っている黎深の横から、肩を包むように抱きついた。黎深はただ、黙っている。
 
「黎深、傍にいるからね。」
 
そう伝えた百合の言葉にも返事がない。
 
代わりにいつの間にか彼の膝の上に抱きあげられた。
 
「きみの傍にいる。」
 
再度の百合の言葉にも返事はない。
 
代わりというように、唇を合わせる。百合はただ、指先に触れる黎深の衣をそっと握った。
 
 
 
 
 
 
    静蘭×十三姫編も読む   絳攸×秀麗編も読む   劉輝×秀麗編も読む  楸瑛×珠翠編も読む
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
あとがき、という名の言い訳
 
 
梅シリーズ第二弾です。
このシリーズを書くに至った経緯は、索咲の客のあとがきに書きましたので、興味のある方は、そちらをご覧くださいませ。
 
 
ネタ探しでインターネットを彷徨っておりますと、思いもかけずに素敵な日本語に出会うことがあります。
そのたびにせっかく先人たちが残してくれた美しい言葉を今まで知ろうとしなかった自分が恥ずかしくなります。
そう言った言葉を知るきっかけとなるのであれば、とオタを肯定しようとする小鈴です。
 
 
 
 
黎深と百合で花見ってどうやって連れ出そうかと四苦八苦した揚句、チビコウにご協力いただきました。
更新履歴に載せたバトンで好きな親子に百合姫と絳攸と答えて以外と言われた小鈴ですが、
絳攸の前でお母さんになる百合・百合の前だと甘えられる絳攸そんな二人が大好きです。